異をとなえん |

「アメリカ帝国の衰亡」感想

2011.02.03 Thu

04:14:51

「アメリカ帝国の衰亡」

を読む。
原題は「After America - NARRAIVES FOR THE NEXT GLOBAL AGE」、著者ポール・スタロビン(Paul Starobbin)、訳者松本薫だ。
1991年8月、ソ連で共産党のクーデターが失敗に終わった時をアメリカ帝国の最盛期として、それ以後をアメリカの衰退の時代としてとらえ、どのような時代になるかを探っている。
本は三部構成からなり、アメリカの過去、現在、未来をそれぞれ描写している。

アメリカの過去でちょっと興味をひかれたのは、1947年のギリシャとトルコに対する援助の話だった。
イギリスがギリシャとトルコに対する援助ができなくなり、アメリカに二つの電報を送信したとある。
一つはギリシャとトルコに対する援助を6週間以内に中止するという電報であり、もう一つはギリシャとトルコに対する面倒をアメリカに肩代わりして欲しいという電報だった。
アメリカは結局それを了承するしかなくなった訳だが、アメリカの覇権がいかにしてできたかという点で興味深かった。

本自体はアメリカ後の未来予測は刺激される部分があって面白かったが、読み終わった時点での一番の感想は違った。
一番の感想は、なぜ著者がここまでアメリカが衰亡するという意識を持っているかということだった。
一応の理屈はある。
ネットからのダウンロードの速度の遅いことや、医療制度の問題等で平均寿命が世界の中で低いことだ。
他にも所得の格差が激しいことや、同性婚を認めていないこと、過保護になったこと、未来に対して楽観的でなくなったこととかあるのだが、なんていうかそれほど重要な問題かと思ってしまう。
私自身はどちらかと言うとアメリカ衰亡派だけれども、ここに挙げられている現象ぐらい解決しようとすれば、解決できないことはないはずだ。
それなのに作者は、アメリカ衰亡を前提として、本を組み立てていく。
ここが一番のアメリカ衰亡の兆しではないだろうか。
もちろん作者はなんとなく嫌な感じをアメリカの奥底から受け取っているのだろう。
アメリカが世界から歓迎されなくなっている兆候もそこかしこにある。
けれども、アメリカが世界から撤退して世界の警察官の役割を果たせなくなるのと、アメリカ衰亡は直接関係ないはずだ。
それなのに、作者は世界の警察官の役割を果たせなくなることがアメリカ衰亡と同じに位置付けているように見える。
読んでいる限りでは、アメリカが世界の警察官の役割を果たすことに否定的であるにもかかわらずだ。
このような意識が予測の切れを鈍くしている。

アメリカ後の世界を示すのに、次の5つの予想を提示している。
・カオス
・多極化する世界
・中国の世紀
・都市国家
・世界文明

それぞれの予想はそれなりに正しいと思うのだが、特にどれか一つが正解ということもなく、全部の予想が当たったとしても不思議ではない。
中国が世界をリードするというのは、一番当たらない予想かも知れないが、中国のGDPが世界一になるだけなら、当たりそうな予想である。
問題なのは、それぞれの予測の具体的なイメージが思い浮ばないことだ。
個々の予想は当たったとしても、全体を通して見たときに未来の画像が焦点を結ばないのだ。

その理由は軍事的な部分がはっきりしていないからに見える。
カオスではアメリカが覇権を放棄した場合に秩序が崩壊するかもしれないと予測している。
そこで、核兵器によるテロとCDSによる経済崩壊を同じ現象みたいに扱っているが、それはどう見ても別の話だろう。

安全保障の問題が解決して、始めて世界の未来は予測できる。
核兵器によるテロが日常茶飯事の世界では文明が維持できるかも怪しい。
その安全保障の部分がはっきりしていないのに、未来を予測しているからピントがはっきりしない。

たとえば、中国の世紀では中国が世界の覇権を握るとしたら、経済力、軍事力において世界一にならなければならないとしている。
そして同時に、中国は現在の自由貿易による秩序を維持し、アメリカの内政に干渉することはないとする。
そうすると、なぜ中国は軍事力を拡大し、世界の覇権を目指すのだろう。
世界の秩序を変更したいからこそ、軍事力で持って世界の改変を目指すのではないだろうか。

つまり、ある要素に注目して、そこから未来を洞察すると、その要素はどうなるか大体わかるのだが、複数の要素が組み合わさると全体の予測がつかない。
そんな本になっている。
ただ、頭は刺激されるので、いい本であるとは思う。

後、日本についてはあまり話題になっていない。
けれども、朝鮮半島が再統一し核武装した軍事国家になったならば、日本が核武装することは当然としている。
また、「中国の世紀」が到来するならば、中国の復讐を考えて、最も警戒しなければならないのは日本だとしている。
私個人はどうかなと思うのだが、アメリカの知識人がこういうことを当然と考えているのは、知っている必要があると思う。

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