異をとなえん |

続:ドイツはどうすべきか - ギリシャのユーロ圏離脱は不可能だ(その13)

2012.06.01 Fri

20:31:59

「ドイツはどうすべきか」でドイツの行動に対する意見を述べた。
うまくいかなかったので、その修正版だ。

ドイツがギリシャの金融危機に対してどう行動するかは、正しいか否かではなくて、損得の問題だ。
ドイツがより積極的にEUを支援するようにという論説は、ドイツの損得を計算していない。
単にユーロの解体を避けるならば、ドイツはギリシャやスペインなどの弱い国を支援する必要があるというだけだ。
でも、ユーロは解体するのだろうか。

前から主張しているように、ギリシャはユーロ圏から離脱できない。
デフォルトすることはできる。
けれどもユーロの使用は止められない。
信頼のおける通貨があるのに、1日で50%も価値が落ちると決め付けられるような通貨と交換する人はいない。

現在普通の通貨は他の商品と交換を保障するような形で流通していない。
だからギリシャで何の根拠がなくても、新通貨を普及させられるような幻想を多くの人が抱いている。
けれども、兌換不可能な通貨が使用されるようになったのは、ほんの最近だ。
少し前までは、金との兌換可能性を保証することで通貨は流通していた。
そして、さらに前は金貨銀貨がそのまま使われていたのだ。

人々は金属の価値を信じて経済が回っていた。
けれども、金本位制の普及によって、本当に大事なのは金属の価値ではなくて、通貨の価値を維持しようとする政府の努力こそが、通貨の本質的な価値であることがわかってきた。
つまり、無闇に通貨を乱発することでインフレを起こすようなことをしないと国民が信じることで、通貨は信頼されている。
ギリシャにはこの信頼がない。
通貨の価値が維持されるのは、黒字赤字があっても最終的にはそれがゼロになるように調整するからだ。
ギリシャ政府は新通貨が導入されても、大赤字のままだ。
借金ができるならば一時的に赤字をごまかすことはできるけれども、今回の無秩序なデフォルトで新たに借金ができるわけがない。
そうすると、強制的に赤字を消すにはとにかく歳出を減らすしかない。
つまりは年金賃金の削減だ。
結局緊縮政策に戻るならば、激震緩和措置として、ある程度借金ができる今の方がよくなる。

ギリシャがEU各国の承認を得て、新通貨を発行するのはどうだろうか。
この場合緊縮政策は続行し、借金等も継続するのだけれど、経済成長を促進するために新通貨を導入するわけだ。
EUの支援があるならば、ユーロといつでも兌換可能な通貨としてドラクマを発行できる。
そうしていくうちに、大部分の通貨をドラクマに変更し、最後にレートを変更するわけだ。
そう簡単にギリシャ国民が政府を信用するかという問題はあるが、最大の問題はギリシャのユーロからの離脱をEUが支援するかどうかだ。
いやドイツがギリシャのユーロからの離脱を認めるかだ。

認めるわけがない。
組織立ったギリシャのユーロからの離脱は、最終的にユーロ高につながる。
それはドイツにとって輸出の不振を招き、経済を苦しくするだろう。
ギリシャと一体であることでユーロ安が生まれるわけだ。
自国の通貨安は基本損だと思うが、この場合ドイツという地域ではユーロ安であり、その他の地域ではユーロ高なので、ドイツにとっては望ましい。

ギリシャの無秩序なデフォルトは巨大な衝撃を与える。
大恐慌の再来がありえるかもしれない。
しかし、南欧諸国からの資金の流出はユーロ安を招き、基本ドイツの輸出にとってプラスになる。
ドイツのユーロ圏内への輸出は減少するだろうが、世界の他の地域への輸出でかなりの部分は補えないだろうか。
そして、不況は金を持っている人にとって得なのだ。
最近のマイクロンによるエルピーダの買収に見られるように、弱い企業が強い企業に食われていくのが世の習いだ。
ギリシャの破綻によって不況がより深刻化すれば、多くの企業が倒産し、強い企業に買収されていく。
今のEUでは間違いなく、ドイツの企業が強者だろう。
ドイツの企業がギリシャやスペインの企業を買収していくのは、ドイツにとって得ではないだろうか。

スペインの銀行が政府の支援をあおいだ。
けれども本来ならば、ドイツの銀行に身売りをすべきではなかったのか。
もちろんただ同然にだ。
いやスペイン政府が結納金をつけてなんとか買収してもらうようにすべきかもしれない。
銀行は債務がついてくるので、そのぐらいの好条件でなくては勝負できない可能性がある。
そうまでして政府がサポートしなくてならないのは、銀行の倒産が経済に深刻な打撃を与えるからだ。
買収した方は一時的に苦しくとも、経済が安定を取り戻せば利益が大きく増えるだろう。
ドイツの企業がEU内で独占的な支配を確立できるならば、不況だってドイツには得だ。

ユーロというのは国家にとって首輪みたいなものだ。
独自通貨があれば政府は国民からいつでも簒奪できる。
ユーロという共通通貨は、その力を失わせるから政府にとってあまり望ましいとはいえない。
けれども安定した通貨は安定していない国にとって極めて有益だ。
ギリシャはユーロ圏に入った後、高成長を続けられた。
安定して餌がもらえるから、首輪をつけたみたいなものだ。
首は首輪より細くて、いつでも離脱できると思っても、成長したらもう逃げられない。
どんなにあがいてもユーロ圏からの離脱は無理だろう。
首輪を握った飼い主に従うしかない。
飼い主はたぶんドイツだ。
ドイツはこの危機によってユーロ圏の企業の多くを手に入れることが可能になる。

そして、ギリシャやスペインでは危機によって深刻な不況が生じ、賃金が引き下げられていく。
けれどもEU内では労働力の自由な移動が認められている以上、そう簡単にいくわけがない。
ギリシャやスペインから出てドイツでなんらかの仕事につけば、普通に給料がもらえるだろう。
もらった賃金を本国にいる家族に送金すればいい。

ドイツとギリシャの関係を東京と夕張にたとえるような意見がある。
夕張が財政危機でも問題ないのは東京が援助をするからだと。
けれども東京と夕張の関係の本質は東京が援助することではない。
夕張が東京に労働力を供給することであり、夕張の財政支出に東京の監督が入ることだ。
ドイツとギリシャの関係も、そう変化するならば安定する。

ドイツの意見というのはネットに出てこない。
だからドイツがどう考えているかはよくわからない。
けれども、ドイツがEUの支援に積極的でないのは、今まで述べたように考えているからではないだろうか。
ドイツが自分たちにとって現状が得と考えているならば、いかにドイツを批判したとしてもドイツが方向を変えるわけがない。
ドイツの方向を変えたいのだとしたならば、自分たちの意見を主張するだけではなくて、少なくともドイツの意見を聞く必要がある。

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