異をとなえん |

バブル崩壊の意味と財政政策について(ロビンソンとフライデーの話)

2012.02.29 Wed

20:53:49

バブルの崩壊がなぜ大きな経済の停滞を招くのか。
そして、ケインズ流の財政政策がある点で有効であり、ある点で有効でないのか。
それを説明するために、ロビンソンとフライデーによるモデルの話をしたい。

ある島にロビンソンとフライデーの二人が住んでいた。
ロビンソンは2単位分のパンを作っていた。
1単位は1年分の量で、どんくらいの量かわからないけれど、まあ成人一人が一年間に食べる量と思って欲しい。
その内1単位をフライデーに売り、フライデーはその替わりに歌をうたうことで支払っていた。
国民総生産は、パンで換算して3単位になる。
生産されたパンが2単位で、パンに換算すると1単位分の価値がある歌をたして、3単位だ。

さて、ここで問題が発生した。
パンの元となる小麦を生産する畑で連作障害が発生することがわかったのだ。
本当の連作障害はいろいろあるのだろうけれど、ここはいい加減に5年間は普通に生産できるが、5年後以降は何も生産できなくなるとする。
パン以外には食糧がないので、生存が危くなる。
これに対応するために、二人は急いで新しい畑を開墾しなくてはならない。
今そういう状況だ。

畑で5年後に一切の収穫物が取れなくなるというのは、不動産において5年後から一切の賃料が入ってこない状況と同じである。
つまり、畑の資産価格は急減したことになる。
ロビンソンは自分の資産価格が急減したというか、5年後に入ってくる所得がなくなったことで、至急対応しなくてはならない。
つまり支出を減らし、この場合歌を聞くことをやめ、売っていたパンを保存し、新しい収入を得る、ここでは新規の畑を開発することになる。
パンの保存期間はかなりあることにしておく。

まず、ここでわかることは、資産価格の減少は支出を減らすことである。
資産の価格は予想される収入を利子率で割り戻したものだけれど、本質は未来入ってくるキャッシュフローにある。
利子率の設定次第では資産価格は大きく変動するけれど、それは重要ではない。
資産の売買の時には意味があるのだけれど、売買しなければあまり関係ない。
重要なのは、資産のキャッシュフローに合わせて支出を変化させなくてはいけないことだ。

もちろん、今回の場合のように5年先に変化が生じるならば、現在何もしないという行動を取る人はいるだろう。
けれども、どんな人間であっても5年後にはなんか変化を起こさなくてはならなくなる。
そして、普通の人間は未来が確定的ならば、すぐ行動を取ることになる。

バブル崩壊後、なぜ日本の経済成長が停滞するかの議論の中で、土地の価格が下がっても元の価格に戻るだけならば、買った人の損は売った人の得で相殺されているのだから、問題ないと主張する意見は、これで間違いだとわかる。
バブルの発生は土地のキャッシュフローが増大すると考えたから起こった。
つまり、土地価格の上昇は未来の賃料上昇によって正当化されると考えたのだ。
土地を売った人は利益を得たけれど、土地を買った人だって利益を得ると信じて、その分支出を増やしたのだ。
具体的には不動産の売買では銀行の融資がつきものだ。
買った方は銀行から借金をして買っている。
将来のキャッシュフローが予想に合わなければ、銀行への返済が滞る。
不動産会社も銀行も、将来の予測が合わなくなることで支出を減らすしかない。
不動産会社も銀行も、不動産を買った時点では自分の収入が増大すると考えて、支出を増やしていたはずだから、その分の支出は当然はげ落ちることになる。
バブル発生時は不動産会社も銀行も非常に羽振りが良かった。
その分の需要は偽だったのだから、その分経済は縮小せざるを得ない。

ここで、未来は常に不確定であることを想定しておこう。
先のことは確定的でない。
人は希望的観測をしがちだから、5年後の収穫予想が0というのは間違いだと思うかもしれない。
その場合、現在の行動をそのまま取っていく。
つまり小麦と歌を交換していくわけだ。
何の対策も取らず、5年後に予想通り収穫物が0になったならば二人とも飢死にすることになる。

バブルの崩壊においても同じようなことが起こった。
土地価格が下落しても、いつかは回復すると信じて、何も対策を取らない不動産会社や銀行も多かった。
その場合支出は基本的に同じままである。
需要が変わらないので、経済の規模は変わらない。
けれども、不動産の価格が元に戻らなければ最終的には破綻する。
日本はバブル崩壊後、かなりの期間経済は成長を続けていた。
基本的には銀行が不動産価格の下落に目をつむり、政府が財政支出の拡大をしていたからだ。
しかし、1998年になると、ついに資金繰りがつかなくなり、金融機関が破綻を始めた。
ここで、未来予測の変化に合わせて行動の変化、支出の減少が起こった。
もちろん、個別の行動はいろいろあったのだけれど、本格的に起こったのはここだろう。
つまり、不良債権処理の実行は、未来予測に合わせた正しい行動の変化なのである。

ロビンソンは歌を聞くことを止め、畑の開墾を開始した。
この場合、フライデーは突如収入を失ってしまう。
島に二人しかいないのだがら、もっとコミニュケーションを取れという話になるだろうけれど、この場合政府があると役立つ。
政府は急に仕事を失った人を助けるために、借金をして失業保険を払うわけだ。
ロビンソンはいつか返却するという政府の保証に応じて、直ちに必要ないパン1単位を供出する。
そのパンはフライデーに緊急に渡されることになる。
飢死やら暴動などの緊急事態の発生が予想されるならば、政府は財政政策を取る必要がある。
もちろん、経済が収縮し新しい状態に変化するのをスムーズに実行できる場合だ。

さて新しい状態に変化しなくてはならない。
どういう状態が正しいかは、すぐに予想できるように、ロビンソンとフライデーの二人が共同して、新規の耕作地を発見、開拓し、現在の農地でも生産を続けることである。
具体的な作業分担は二人で協議することになる。
この時、国民総生産はパンで換算して2単位になる。
現在の農地からの生産分2単位だけで、歌はなくなるのでその分の生産は減る。
新規の耕作地の発見、開拓はまだ成果が出ていない。
出る予定もまだない。
だから、生産としては換算されない。
前が3単位だったから、国民総生産は減少する。
資産価格が暴落した場合の正しい経済の反応となる。

フライデーは、歌をうたうより、畑仕事をしなくてはならない。
新規の労働である以上大変だけど、収入はパン1単位と変わらないのだから、普通は嫌がるだろう。
今回はすぐ飢死にしてしまうから、直ちに新規の労働を受け入れるだろうけれど、蓄えなどがあった場合は時間がかかる。
賃金の減少を労働者はすぐに受け入れられないわけだ。

次に財政政策の有効性について考えてみよう。
ロビンソンはフライデーと共同で作業を考えたが、あまり役に立たないと思ったので、自分一人で現在の耕地作業と新規の開拓をしたとする。
フライデーは失業状態のままだ
ロビンソンが生きのびるためには、正解かもしれないけど、コミュニケーションが取れていれば、フライデーを見捨てるようなことはしないだろう。
しかし、国民経済のように大きな経済の場合、コミュニケーションの不備は発生するので、その場合政府の措置は有効になる。
政府は将来のパンの返却保証と引き換えに、ロビンソンからパンを手に入れて、フライデーを雇い、なんらかの新規の耕作地開拓の仕事をする。
政府とロビンソン、どちらの新規耕作地の開拓能力が高いかの問題はあるが、大体同じ効果ならば、政府の財政政策は有効なわけだ。
この時、国民総生産はパン3単位になる。
生産したパン2単位分と政府の支出はパン1単位分の価値があると計算されるので、パン3単位なわけだ。
ロビンソンとフライデー共同で作業するのと、実質は同じなのだから、計算の綾でしかない。

それでは、政府がフライデーに歌をうたわせたらどうだろう。
フライデーが失業状態なので、とにかく仕事を与えようというわけである。
この場合、フライデーの役に立ったかもしれない労働力が無価値に使われることになる。
ロビンソンの側で唄うことで役立つかもしれないが、それはまた別の話だろう。
この場合でも、国民総生産はパン3単位だが、間違っていることは明らかだろう。

以上をまとめると、次のようになる。
資産価格の減少は需要を減らす、つまり経済規模を縮小させる。
不良債権処理は資産価格の下落が確定すれば実行する必要がある。
緊急対策はたぶんした方がいい。
財政政策は正しく実行されれば成果がある。
財政政策は間違って実行されれば害が生じる。

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