異をとなえん |

ギリシャのユーロ圏離脱に意味があるのか?

2011.06.15 Wed

04:58:06

ギリシャはユーロ圏から抜けた方がいいという意見をよく見る。
通貨ユーロを使うことをやめて、昔の通貨ドラクマを使えというわけだ。
この意見がなんというか疑問なのである。
なんか前にも書いたような覚えがあるが、続けてしまおう。

ユーロを使っていることと、自国特有の通貨を使っていることの違いはなんだろうか。
自国特有の通貨を使っていると、為替を切り下げていくことによって簡単にコストを下げられる利点がある。
レートを半分にしてしまえば、いきなり輸出品の価格は半分になる。
そうすれば競争力は大幅に回復し、借金の返済も進むというわけだ。
アジア通貨危機の場合の韓国はその適例だろう。
IMFの指導によって、大幅にレートが切り下げられ、財政も緊縮政策が取られた。
国民にとっては苦しかったが、その痛みに耐えることによって、急激に経済は回復した。
つまり、ギリシャもユーロ圏から離脱すれば、経済の急激な回復も可能だというのだ。

でもユーロ圏にいたら、コストを下げることはできないのだろうか。
為替レートを半分にするほど簡単にできなくとも、賃金を半分に切り下げるのは実行しようと思えば可能なはずである。
本当に可能かどうかは難しいかもしれないが、本質的な問題ではない。

問題なのは、金融資産の価値の引き下げだ。
為替レートを変換すれば、ギリシャ固有の通貨単位の資産の価値は簡単に変更できる。
けれども、ユーロ建ての金融資産の場合、その価値を変更することはできない。
つまり、自国通貨建ての場合、為替レートの引下げによって、金融資産を持っている人間たちからも、価値を収奪することが可能なのだ。
その奪われた価値を誰が手に入れるのか。
最終的には輸出品の価格が減少することによって、ギリシャの製品を輸入する国の利益になる。
あるいは、輸入品の価格が増加することによって、輸入品を使っている消費者が損失を分担する。

そんなことを考えると、自国通貨の切り下げの方がずっと有利に見える。
けれどもそれは本当だろうか。
普通金融資産の総額はGDPよりも大きい。
日本の場合はGDPよりちょっと大きいぐらいだ。
金融資産が通貨レートの切り下げによって、一気に減少するのは国民からの収奪として非常に問題だ。
というより、自分の財産が国家の恣意的な行動によって大幅に減少するのは、通貨の信頼性を大幅に失わせる行為だ。
最終的には、取引の安全性の欠如などで国家の成長自体を止めるだろう。

ギリシャがEUの加入によって高度に成長したのには理由があった。
ドラクマの不安定な資産ではなく、ユーロという安定した資産で自分の財産が持てるのは、安心できる。
取引先は安心できなくとも、現金で持てば安心できる。
外国に資産を退避させるのではなく、自国内に確保できることだけでも成長にとってはいいことだ。

本題のユーロ圏の離脱に戻ろう。
問題なのはユーロ圏を離脱したとしても、金融資産はユーロ建てで運用されていることだ。
これらの資産はギリシャ固有の通貨単位には変換できない。
ギリシャ政府が1ユーロは1ドラクマにすると宣言したとしても、100万ユーロの貸し出しを100万ドラクマの貸し出しに変更してくれるような貸し手がいるわけがない。
価値が毀損するのが目に見えている通貨に変換する人はいない。
結局現行の金融資産の価値を下げることができないならば、ユーロ圏にとどまるのも、ユーロ圏から離脱するのも、賃金を引き下げて借金の返済に当てるしかない構図は同じだ。

ギリシャのユーロ圏離脱が意味ないならば、最終的な経済発展には留まっていた方がいい。
通貨の価値が安定している方が経済発展にとっては大事だからだ。
ギリシャがデフォルトしたとしても、国民にとっては自分たちの金融資産がユーロである方が望ましいに決まっている。
そんなわけで、ギリシャのユーロ圏離脱は意味がない意見である。

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398 続:ギリシャのユーロ圏離脱に意味があるのか?

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