異をとなえん |

羽生とあから2010の対局を願う

2010.10.13 Wed

02:28:33

昨日、女流プロ棋士清水市代とコンピューターあから2010との対局があり、コンピューターが勝った。

棋譜についての動画は下記にある。
プロ棋譜を鑑賞しよう! 清水vsあから

また、トッププロによる解説はニコニコ動画で生放送した番組が下記で見られる。
人類VSコンピュータ!世紀の将棋対局〜清水市代女流王将vs.あから2010

さらに、この対局に関するリンク集としては下記が便利だ。
あから2010、清水女流王将に勝利: 詰将棋メモ

コンピューターの実力が既にトップアマを上回っていることを考えると結果は順当だが、内容は驚くべきものがあったように思う。
2度目の4四角打ち、4五同桂、2三飛など、トッププロの解説によると、コンピューターの手には人間の感覚だと悪そうな手が出てくるのだが、読んでみると難しいらしい。
つまり、一目は悪そうなのだが咎めるのは難しいという、実戦的には一番嫌な手である。
弱い方からすると、相手の手に反発すべきなのか、それとも一旦は引いておくべきなのか、それらの選択を常に迫られることであり、非常に迷うのである。
そして、結局は間違えてしまう。
終局後にあの時はこう指しておけば良かったなどと言っても、後の祭である。

将棋記者でもあり、棋士でもある河口氏が若い頃の羽生と打った将棋で、次のような意見を述べていた。

引用開始

終って感想戦になり、彼が長考した場面について訊くと、「すこしわるいと思っていました。」と言って読み筋を公開してくれた。その通りになればたしかに私が勝ちそうである。しかし、それは終ったあとの話で実戦ではどうなるか判りはしない。仮りに私が最善手をつづけて追い込んだとしても、そこからが彼の本性で、次々と読みを外す手を指されて、結局私が負けただろう。そう指されれば負けでした、というのは、先輩の顔を立ててくれたのである。
引用終了
新潮文庫「一局の将棋一回の人生」p66

清水さんも局面局面ごとに選択を間違え、投了図は大差になった。
駒の損得はコンピューター側の歩が4枚多いだけなのだが、働きが大差でどうしようもなくなっている。
力の差がある対戦において、下手が上手の圧力を必死に耐えているのだが、結局持ち堪えられず押し潰された、そういう対局だった。

コンピューターの序盤中盤には難があるというのが常識だが、今回の対局ではハードの能力を上げることによってほとんど改善したように見える。
むしろ、人間の読みを外しているにも関わらず、互角というのが一番怖い。
この対局の前はまだ人間がコンピューターより強いと思っていたのだが、そうでないのかもしれない
残念ながら、清水さんではレベルが低過ぎてコンピューターの力のレベルはよくわからなかった。
難しい選択局面で最善手を打ったらどうなのか、その解説を知りたかったと感じる。
簡単に悪くなるのか、それともますます難解な手を指して局面を互角に導いていくのか。
コンピューター側は自分の方が終始良かったと思っていたようなので、トッププロの判断を聞いてみたかった。
それと、ちょっと余談になるがコンピューター側も読み筋を発表して欲しい。
特に今回のような対局ならば、解説の所で読み筋を発表してくれると実に面白いのではないだろうか。

そんなわけで、コンピューターの実力のほどは良くわからないが、それでもハードの向上によって物凄く実力を上げている雰囲気を感じた。
もしかしたら、もう羽生と同等のレベルなのかもしれない。

今年羽生の調子がいい。
妄想的に考えると、羽生はコンピューターと戦うために調子を上げている。
「がんばれ元気」や「はじめの一歩」などのマンガでは、長く防衛してきたチャンピオンが主人公である最強の挑戦者のために万全の準備をして対戦を待つ。
「はじめの一歩」はまだわからないけれど。
それと同じような感じを現在の羽生の強さに見る。
羽生はコンピューターとの決戦が近いことを感じて、自分の最高の状態で戦うために燃えているのだ。
そして、コンピューターも羽生が衰えない最高の状態で戦いたいがために、長足の進歩をする。
マンガとしては、最高に燃える展開だ。

羽生は人類史上最強の将棋指しだ。
それでも、後5年も経てば衰えてしまうだろう。
現在の状態の内にコンピューターと対戦して、羽生の生涯最高の一局を指して欲しいと願う。

今後コンピューターはどんどん強くなる。
人間はどんどん分が悪くなっていくだろう。
けれども、完全読切が不可能な以上勝つチャンスは人間にも常に残っていく。
勝ち目が1%、0.1%、0.01%と下がっていっても、その残された可能性にチャレンジして勝利するであろう人間に私は期待している。

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コメント

244

あから2010の思考ログは公開されています。
ttp://www.ipsj.or.jp/50anv/shogi/akara2010.log

読むのはなかなか骨が折れますが、
「合議に参加した各ソフトがどのような手を意見として出し、どのように議決したか」
がわかります。これをもとに勝又五段が雑誌「将棋世界」に解説を寄稿されるそうです。

一部の局面を擬人化によって解説したものについては
ttp://d.hatena.ne.jp/tsumiyama/20101013/p1

があります。

245

ttp://www.geocities.jp/dryad_saddle/shogi/akara2010_ja.log

上記ログを日本語に訳したものです。
無味乾燥ではありますが、読みやすいかと思います。

246 勝てるのは今だけ?

チェスではプロがコンピュータソフトにハンディをもらって対戦しています。将棋のソフトも基本的にはチェスのソフトとたいして変わりません。日本では研究している人が少なかったため遅れていただけです。合議制とかCPUの数が多いとかはあまり関係ありません。一つのソフトだけのほうがむしろ強かった可能性もあります。(他のソフトに割り当てられていたCPUを独占して使えばより深く読める)チェスでは昔はスーパーコンピュータを使っていましたが、現在は普通に売っているパソコンでも世界チャンピオンに勝てるくらいです。評価関数の精度が上がって来ているからでしょう。羽生名人が勝てる可能性があるのは今だけとも考えられます。年々勝つことが困難になってくるでしょう。どこかのスポンサーが賞金1億以上で5番ないし7番勝負を企画してくれたらおもしろいと思います。人間代表はその年のタイトルを最も多く持っている棋士、もし断ったら次点の人・・・で行えば良いと思います。断れば負けるのが怖くて出ないのかと軽蔑されるでしょう。いずれ全く勝てなくなるのは明らかなので、負けたからと言って恥でも何でもありません。チェス同様、コンピュータのほうが強いからと言って将棋自体が廃れることは全くないと思います。むしろ分析に積極的に活用すべきです。

247 Re: あから2010の思考ログ

コメントありがとうございます。
返事が遅れてもうしわけありません。

あから2010の思考ログについては、私もその後知り、読んでいろいろと考えていました。
印象に残るのは、清水さんが馬と飛車を交換した所は全てのソフトが逃げる一手だと読んでいた部分や、5七角打ちがかなりソフトの間で紛糾した部分です。
各ソフトの読み筋も公開されていて、面白いです。

それでは。

248 Re: 勝てるのは今だけ?

よしさんコメントありがとうございます。
返事が遅れてもうしわけありません。

> チェスではプロがコンピュータソフトにハンディをもらって対戦しています。将棋のソフトも基本的にはチェスのソフトとたいして変わりません。日本では研究している人が少なかったため遅れていただけです。

これはどうでしょうか。
チェスは将棋より場合の数がだいぶ減りますし、終盤になればなるほど複雑さを増す将棋の方がずっとコンピューターにとっては実力を上げるのが困難なはずです。
だから、チェスより将棋の方の進歩が遅いのは、研究者の数というよりマシン性能の差の方がずっと大きいと思います。

> 合議制とかCPUの数が多いとかはあまり関係ありません。一つのソフトだけのほうがむしろ強かった可能性もあります。(他のソフトに割り当てられていた CPUを独占して使えばより深く読める)

ログを見たかぎりでは合議制の方が実力は上がっていると思います。
実際6%ぐらい勝率が上がっているというのをどこかで見ました。

> チェスでは昔はスーパーコンピュータを使っていましたが、現在は普通に売っているパソコンでも世界チャンピオンに勝てるくらいです。評価関数の精度が上がって来ているからでしょう。

評価関数の精度が上がっていることもあるでしょうが、最大の要因はやはりマシン性能が上がっていることでは。
この記事を書いた後、世界コンピューター選手権の対局なども見ているのですが、かなりへぼい所があります。
あれでは人間に勝つのはまだまだな感じなのですが、今回の対局ではそれがあまり感じられません。
最大の違いは思考時間の差だと思います。
世界コンピューター選手権では24分切れ負けの戦いで、あまり深く読めません。
それに対して今回の対局は持ち時間3時間で、後1分の秒読みがあります。
たぶん、1手や2手は深く読めたはずです。
それが大きく響くのでしょう。
チェスもマシン性能の向上によってより深く読めるようになっているはずです。

> 羽生名人が勝てる可能性があるのは今だけとも考えられます。年々勝つことが困難になってくるでしょう。どこかのスポンサーが賞金1億以上で5番ないし7番勝負を企画してくれたらおもしろいと思います。人間代表はその年のタイトルを最も多く持っている棋士、もし断ったら次点の人・・・で行えば良いと思います。断れば負けるのが怖くて出ないのかと軽蔑されるでしょう。

対局は見たいです。
竜王戦あたりで特別参加させてくれればと思います。
アマの出場が認められているならば、コンピューターの出場もありではということで。

> いずれ全く勝てなくなるのは明らかなので、負けたからと言って恥でも何でもありません。チェス同様、コンピュータのほうが強いからと言って将棋自体が廃れることは全くないと思います。むしろ分析に積極的に活用すべきです。

将棋の局面に互角の局面はありません。
常にどちらかが有利なはずです。
と書いたけど、千日手や持将棋があるから、最善をつくして互角の局面もあるのか。
まあ、言いたいのはどちらかが有利なはずで、人間が有利な方を持ち間違わなければ、コンピューターが最善をつくしても勝つことはできないはずです。
コンピューターがほぼ最善の手を打てるようになるにも、まだまだ時間がかかるでしょう。
そして、人間が悪手を指さないで一局指せる可能性も少ないながらあります。
そういう意味で、勝てるのは今だけでなく、常に人間が勝つ可能性は残っています。

それでは。

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