異をとなえん |

「日本文化の原型」感想

2009.12.26 Sat

19:46:44

「日本文化の原型」を読む。

前にざっと立読みしていたのだが、図書館にあったので借りてきた。

基本的に最近主流になったと見られる「江戸時代は暗黒時代じゃなかった」論の本である。
私はその論を支持しているから、ちらっと読んだ時はあまり目新しさを感じなかったが、全体をきちっと読んで少し意見が変わった。
本の中では、衣食住に始まって、出版、文房具、教育、絵画、芝居、観光旅行など、生活の全てを網羅して書いている。
その結果、江戸時代の前と後では生活が根本的に変わったと確信できた。
江戸時代の前ではそもそも抑圧できるような生活がない。
酒がない。
醤油がない。
歌舞伎がない。
本がなくて、旅行がなくて、浮世絵がない。
暗黒時代論の前提である、抑圧するためのゆとり自体が江戸時代の前には全然ないのだ。
江戸時代には、歌舞伎や本の禁止といろいろ弾圧も時々あったろうが、そもそもそれらを生み出したのが江戸時代だった。

日本が江戸時代停滞していたという批判も、全くあてはまらない。
この本の副題は「近世庶民文化史」だが、経済学的な目でとらえれば、膨大な新産業の勃興史である。
生活のありとあらゆる面で、新しい産業が生まれ生活を豊かにしていった。
その歴史である。
数値的な資料がないから国民総生産とか成長率とかは算定できない。
けれども、国民総生産が江戸時代の最初と後では全然違うだろうことは、本を読めば容易に推定できる。
人口が江戸時代初期に急激に増えた後停滞したとしても、一人当り総生産は順調に増えていたはずだ。
一人当り総生産が増えている社会が停滞していたはずがない。

もっとも、この理解は少しおかしい。
生活が豊かになることが人々の目標で、国民総生産が増えたかどうかとか、成長したかどうかは、結果としての話である。
だから、生活が豊かになったことがわかれば、国民総生産なんかはどうでもいい。
けれども、一人当り国民総生産が二倍になれば、生活が二倍豊かになったと大体推定できる。
数値だけで簡単にわかるという点で便利だという話だ。

本の中では新産業を生み出した余剰の話は、ほとんど出てこない。
けれども、これだけ新産業が生まれたということは、農業の生産性が改善して、他の産業に従事できる余剰を生み出したことは容易に想像できる。
そして、生産性の改善ということで言及されているのは、木綿の普及だ。
麻の衣服が木綿の衣服に変わったことで、女性たちの織る作業時間が大幅に短縮しただろうと書いてある。
生産性の改善が新産業への労働の供給となり、新しい商品を享受するためのゆとりとなる。

江戸時代を理解する本としては、他に「逝きし世の面影」が上がる。

「逝きし世の面影」は外国人の目で江戸時代をとらえることによって、今の日本人の共感する力を呼びさました。
この本は、史実を丹念にたどることによって、具体的な生活を把握させた。
江戸時代を全体的に把握できる好著だと思う。

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