異をとなえん |

覇権国交代の理論 - 「内向の世界帝国 日本の時代がやってくる」感想

2009.12.02 Wed

16:01:04

** 前書き

「内向の世界帝国 日本の時代がやってくる」を読む。

アメリカの次の覇権国は日本だという本だ。
私も日本が次の覇権国になるかもという、淡かな期待を抱いているのだが、その過程がどんなものかわからなかった。
この本はその疑問に対する回答ではないかと読んだが、直接その質問には答えていない。
けれども、なんとなく日本の時代が来るかもと思わせる本だった。
本全体としては、まとまりがないし、各論点については突っ込み所も多い気がする。
しかし、その突っ込みを入れるのが楽しく、いろいろと想像力を刺激させる本だ。

** 増田氏の交代の理論 - なぜ覇権国は交代するのか?

本の中では近代的な覇権国を、オランダ、イギリス、アメリカとし、そのためには三つの段階を得るとある。
最初は急激な人口の減少、二番目は経済の加速的な成長、そして三番目に深刻な不況だ。
なぜ、そうなるのかについては本の中で説明があるのだが、いろいろと疑問も多い。
たとえば、急激な人口の減少と経済の加速的な成長は覇権国以外にもあまたあると思うのだが、
それらの国と覇権国がなぜ違うのかについては答えていない。
覇権国はその時代で最高のエネルギー効率を達成した国というのは正しいと思うが、
それをもっと単純に書けたと思う。
そんなわけで、この本から触発された私自身の覇権国交代の理論を書いてみる。

** 私独自の覇権国交代の理論 - 一次エネルギーの変換が覇権国の交代をもたらす

覇権国の交代は一次エネルギーの変換がもたらしている。
より効率的なエネルギーを利用した国が、その時代のリーダーシップを握り覇権国となる。

*** 風力から石炭へ、石炭から石油への変換

オランダのことはよく知らないが、風車で有名だということを考えて、風力だとする。
風力は人や家畜の力より効率がいいので、オランダが覇権を握る。
風力よりも石炭の方がエネルギーの効率がいい。
そこで、石炭を産業に初めて利用したイギリスが覇権国につく。
そして、石炭より石油が一次エネルギーとして有利だということが、アメリカでの利用とともに次第にわかっていく。
イギリスは石炭の利用が先細りになると同時に没落して、アメリカが次期覇権国になる。
覇権国は、エネルギーの利用の先端であることによって文明を構築し、それを広めていくことによって世界でリーダーシップを握る。

*** 覇権国の没落

覇権国はその時代の先端のエネルギーのシステムに完全に特化することによって発展するが、
エネルギーの変換が発生するとそれについていけず衰えてゆく。
イギリスが石炭に特化していたことは、サッチャー時代になっても石炭労働者のストと戦わざるを得なかったことからも明らかだ。
石炭に特化していたイギリスのシステムは石油システムに簡単に変更できないので、
どうしても効率が落ちることになり、覇権国としての力を保てない。

*** 覇権国になった理由

こう考えると、オランダはともかくとして、イギリスとアメリカが覇権国になった理由は明らかだろう。
イギリスは豊富に石炭を算出する国として、世界で初めてその利用法を生み出し、発展していった。
その事自体が産業革命として、歴史書に載っているほどだ。
アメリカは石油を工業的に利用する国としては最初であり、本の中で紹介されているのだが、当初は石油市場の70%をおさえていた。
石炭から石油にエネルギーが変換すれば、アメリカがリーダーシップを握るのは当然とも言える。
イギリスとアメリカ、各々に石炭と石油がなかったとすれば、覇権国になったとは到底思えない。
発展しようとする、正にその時、新時代のエネルギー源がちょうどあったことが、覇権国になった理由だと思う。

*** 次期覇権国はなぜ大きな不況に陥るのだろうか?

覇権国の交代の前には、次期覇権国は大きな不況に陥っているように見えるが、それはなぜなのだろうか?

**** オランダからイギリス
オランダからイギリスへの交代の場合には「南海の泡沫」破綻があった。
ただ、発生したのが1720年で、イギリスが覇権国であることを確定化させた産業革命の発生が1700年代後半であまり時代があっていないように見える。
しかし、産業革命の発生と見られるワットの蒸気機関の発明は1769年だが、ニューコメンの蒸気機関の発明は1712年だった。
ニューコメンの蒸気機関は商業的にも大成功したらしいので、関係があるようにも見える。
元々、オランダの覇権国としての優位性が弱いから、はっきりしていないのかもしれない。

**** イギリスからアメリカ

そんなわけで、考えるにはイギリスからアメリカの場合の方がいい。
イギリスからアメリカへの変更の場合には、大恐慌というはっきりしたサンプルがある。
石炭によってイギリスは覇権国となったが、アメリカは石油によって台頭していった。
石油による効率の上昇で、供給力は増大していく。
しかし、需要はイギリスの石炭によるシステムに制約されていた。
石炭の供給に見合った需要しかないわけだ。
そこで、供給の増大に合わせて薔薇色の未来を予想していたのが、裏切られて大不況が生まれたことになる。
私は前に大恐慌の原因は土地価格の下落によるものと推定しているが、システム自体の矛盾がもっとも弱い部分を破壊したと考えることもできる。
結局、大恐慌後アメリカは蘇えるわけだが、それは郊外に住宅を移すことで、大きな乗用車と広い住宅といった形で、新しい需要生みだしたと言える。

*** なぜ覇権国としてオランダは短かく、イギリスは長かったか、そしてアメリカは短かいように見えるのか?

覇権国の存続する期間についても、本の中ではいろいろと説明がある。
オランダは短かく、イギリスは長く、そしてアメリカは短かいと推定している理由だ。
しかし、私には納得できなかった。
単純に、石炭から石油へのエネルギーの変換が長くかかったから、石炭文明のチャンピオンとしてのイギリスの覇権は長く続いたのではないだろうか?
同じフィールドを走っている限り、先頭走者としての優位は長く続くというわけだ。
そして、アメリカの覇権国としての期間が短かい理由も推定できる。
石油を使い切ってしまえば、石油に特化したアメリカ経済を維持できないからだ。

*** 一般化

以上の話を一般化してみよう。
次期覇権国は新しいエネルギーの利用によって、その当時の覇権国を上回る成長を遂げていく。
しかし、その成長は当時の覇権国のシステムでの需要の限界によって、頓挫し不況を迎える。
供給力に見合った需要を生み出していないからだ。
その後、バランスを取り戻し新たな成長路線に戻るが、そうするとエネルギーの変換が誰の目にも明らかになっていく。
覇権国もエネルギーの転換を図らねばならないが、旧エネルギーに特化しすぎたことによって、簡単には転換できない。
経済は停滞し、世界のリーダーシップを取る余裕がなくなる。
そこで、次期覇権国がリーダーシップを取ることになる。

** アメリカの没落は必然ではないのか?

今後のことを考えてみよう。
まず、アメリカの覇権国としての地位は長くない。

*** 石油がぶのみの経済

前に述べたように、アメリカ経済は石油がぶ飲みを前提とした経済システムを作っている。
郊外での広い住宅と通勤するための大きな自動車だ。
これはガソリン価格が安くなければ機能しない。
ガソリン価格が上昇すれば、アメリカ人は自動車通勤を避け、公共交通機関への転換を図るだろう。
そして、都心の高層マンションに住むようにし、交通費を削減しようとする。
郊外の住宅価格は下落し、大きな自動車は不要になり、大きな住宅に合わせた大きな家電製品も使い道を失う。
これら全てが資産の膨大な下落を引き起こし、経済は停滞する。
この場合、アメリカが覇権国からすべり落ちるのは当然に思える。
実際、第二次石油危機で石油価格が大幅に上昇した後、アメリカ経済は長期低迷に陥った。
石油価格は低下していたが、石油危機のイメージにより大型車は売れなくなるなどが原因だ。
結局、景気が回復するのは石油危機のイメージが消え、大型車の売行きが回復してからだった。

*** 石油価格は下落するのか?

石油価格が上昇すれば、アメリカが覇権国からすべり落ちる予測は正しいと思うのだが、本当に今後石油価格は上昇するだろうか。
石油価格の予想は難しいけれども、海底油田の発掘が盛んなように、コストの高い油田が多くなっているように見える。
開発費が安い油田の発掘はあまり期待できない。
そうすると、需要が着実に増えていけば石油価格は上昇する。

今年中国の自動車販売はアメリカを抜いて世界一になった。
自動車販売は40%増という。
ガソリン需要も急増しているはずだ。
さらなる成長が続けば、石油の需要も急激に増えていくだろう。
中国経済がアメリカ経済と関係なく成長できるかは、よくわからない。
アメリカへの輸出が減れば、中国の経済は停滞することもありうる。
しかし、アメリカの景気が良ければ、輸出の増大によって中国の景気が良くなることは間違いない。
既にシステムとして組込まれているのだ。
つまり、アメリカの景気が良くなって石油需要が増えると、石油価格は上昇してしまう。
第二次石油危機後のように、発電用燃料から石油を外すことによる需要の減少はもうない。
石油価格の上昇が確実ならば、アメリカの覇権国からの転落も確実だろう。

** 脱石油経済の行方は?

石油が一次エネルギーから脱落した場合、今後の経済はどうなるだろうか。
そして覇権国の行方は?

*** 電気中心の仕組み

石油の次のエネルギー源は未だはっきりしていない。
原子力、天然ガスなど候補はいろいろあるだろうが、完全に石油にとって替われるかは難しい。
そして、輸送エネルギーの中核であるガソリンがどう変わるかは、更に難しい問題だろう。
一つの考えとして、まず電気に変換して使うのが主流になるとみたい。
何のエネルギーでも電気に変換すれば、その後の工程は考えなくてもすむ。
実際、今の日本はそんな風になっている。
そして、一次エネルギーの価格の変化に応じて、どのエネルギーで電気を起こすかを変更すれば、経済の影響はほとんどなくなる。

*** 発電用燃料の転換

実際、第一次石油危機前は発電用燃料としても、石油が使われていたが、その後の燃料の高騰によって競争力を失っていった。
既に発電用燃料として石炭は復権している。
つまり、石油の重要性はガソリンという自動車の燃料であることだけになった。

*** 自動車の燃料

自動車の燃料については、ガソリンからの変更がどうなるかは、はっきりしない。
電気自動車が開発の本流になっているが、当分自動車価格やエネルギー価格を含めたシステムとしての価格は、ガソリン自動車を上回っていくだろう。
そうすると、そもそも現在のアメリカのように、あらゆることに自動車を使うシステムのありかたを変更して、日本みたいに人員の輸送を鉄道に変えた方がいいのではないだろうか。
日本は石油ショック以降石油の消費は増えていない。
世界の他の国が日本のシステムに近くなっていくならば、石油消費は減少するだろうし、そうすれば自動車のシステムを電気自動車に変更する必要もなくなるかもしれない。

結局、脱石油経済は電力経済こそが中核であって、その発生方法は問わないというのが私の結論である。
そして、それ以外の石油の使用法については、少しずつ電気を使用する方向に変化していく。
オール電化住宅が流行りつつあるのも、その表れの気がする。
そうすると、次期覇権国は電気を最も効率的に使うシステムを構築している国だろう。

*** 覇権国としての日本

エネルギー価格の上昇を前提とすれば、日本がその効率の高さから世界のリーダーシップを取ることは十分にありえるように思える。
現状の体たらくを見ると、到底考えられないが、石油価格の上昇が続き、それでも日本経済の上昇が続けば、その理由を探しに日本に来る人も多いだろう。
それらの人を指導することによって、自然とリーダーシップが生まれる。
アメリカが覇権国として行動する能力を失うならば、日本のリーダーシップは覇権国と言えるほどの物になるかもしれない。

もっとも、現在日本は経済成長と呼べるほどの成長をしていない。
それは生みの苦しみかも知れないが、実は衰退しているだけとも見える。
日本が停滞から脱して、始めて覇権国だとかの話が現実になる。
そうなることを期待したいものだ。

** 結論

本の感想なのに、触発された私の理論を語ってしまった。
ただ、そのような想像力を喚起する本ではある。
突っ込み所も多いと思うので、いろいろ楽しめる。
最近、文章というものは突っ込み所を多く作った方が読ませる力が強いのではないかと感じている私には、参考になる。
そんなわけで、お勧めである。

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