異をとなえん |

戦争国家の本質的な不平等性 - 世界は日本化へ向かう(その11)

2009.06.12 Fri

03:13:57

前回は戦争国家において知的エリート階級が必須だという話をした。
今回は戦争国家において人間が本質的に不平等であることを考察したい。

『悲劇の発動機「誉」』を読んだ時、一番衝撃的だったのは、
その当時もっとも重要だったエンジンの主任設計者を徴兵してしまうところだった。
しかも、エンジンは一応量産には入っているが、トラブル続きで、改良の真っ最中だった。
一番、その人間が必要な時だと言っていい。
なんというか、太平洋戦争の本を読んでいる時、あまりにも日本という国家が馬鹿なので、
ときどき絶望的な感じに襲われることがあるのだが、この徴兵はその一つだ。
これは極端な例だが、工場の熟練労働者を徴兵したことも、
戦争経済の維持の上でマイナスだったと言われる。

どうしたら、このような馬鹿げたことを止めることができただろうか。
後講釈で批判することは簡単でも、実際に仕組みを考えてみると難しいことがある。
これもその一つだ。
たとえば、徴兵対象者の現在の仕事が戦争にどのくらい必要かを考えて、
徴兵するかどうか判断する、という方法がある。
こんな方法は事務の量が多すぎて、到底対応しきれない。
そうすると、どうするか。

結局仕組みとしては大きな単位で割り当てて、
それを更に小さな単位ごとに割り振るしかない。
たとえば、中島飛行機は戦闘機を年間1万機作っている、
だから、徴兵不可の人間を5万人割り当てる、という方法だ。
これは、組織に合わせて分割されてゆき、最終的な末端に到達する。
つまり、現場の末端のボスはノルマを達成する義務と引き換えに、
徴兵不可の要員を指定する権利を得ることになる。

このような状況においては、徴兵の成否を決定する人間の価値が極めて高くなる。
そして、同じ従業員においても、その能力によって価値が定まってくるのだ。
これは戦争国家において、本質的に人間が不平等だということを現わしている。

これは仮定の話だが、現実の例としては「シンドラーのリスト」という作品がある。
映画は見ておらず、小説しか読んでいないが、
工場の労働者にする名目でユダヤ人を助けるという話だった。
この場合には、完全に戦争のために役立つ人間なら生存が許され、
役立たない人間は殺される世界だ。

もっと、一般的な話をしよう。
第二次世界大戦の時、軍用機のパイロットは、一番いい食事をもらえたという。
アメリカ軍は全員がいい食事をしていそうだが、日本軍ではたぶんそうだったのだろう。
もちろん、これは納得できる話だ。
整備の要員の努力の最終的な成果は、
結局パイロットが戦闘時にどれだけ結果を出せるかにかかっているのだ。

しかし、この話をさらに広げていったらどうなるだろう。
たとえば、ある重要な人間が、とてつもないわがままを言い出したとする。
それを認めるべきだろうか。
結局の所、その上の人間が成果を挙げるために必要だと判断すれば、
それを認めるしかない。
この仕組みは順繰りにトップまで上がっていく。
つまり、戦争国家の一番トップは持っている資源の全てを、誰にどう配分するかを考え、
目標を決定することになる。
その資源の配分は、正しいと考えれば自分の好きなように決定できるのだ。
これが戦争国家というものだ。

つまり、戦争国家は本質的に人間が平等ではないことを前提にしている社会であり、
上層部とのとてつもない格差を許容している社会なのだ。
最初に戻ると、日本は人間の価値判断をして徴兵の判断をすることができなかった。
これは日本の平和国家としての長い伝統が、人間の価値評価することを許さなかったからだ。
それでは、なぜ平和国家では、人間は平等なのか、その説明は次回に回そう。

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