異をとなえん |

戦争国家は知的エリート階級を必要とする - 世界は日本化へ向かう(その10)

2009.06.09 Tue

03:48:18

「世界は日本化へ向かう」は構想通りにすると全然進まないので、
やはり思いついた所から書いていく。
今回は戦争国家で、なぜ知的エリート階級が生まれるかを考察したい。
前に戦争国家では権力が集中すると述べた。
しかし、最高指導者だけでは、組織は動かない。
組織が動くためには、最高指導者の意思を末端まで連絡し、
逆に現場の情報を最高指導者まで伝達するための中間組織が必要になる。
この中間組織を形成する人間たちが、知的エリート階級となる。

戦争国家では軍隊組織が基本構造になる。
軍隊組織の基本は命令系統が確立していて、
結節ごとの指揮官に強い権限が与えられていることだ。
そして、指揮官の意思決定は迅速でなければならない。
戦争においては状況は刻々と変わってゆく。
相手は勝つために手段を選ばず、できるだけ意表を突いて予測を変わそうとする。
当然のことながら、自国側ではそれに対応して、行動を変化させ、
逆に相手の予想を超えようとする。
このスピードは、非常に速いわけだから、
複数の人間で判断して、意思決定する時間があるとは限らない。
もちろん、意思決定者は、
時間さえあれば助言を求めるために複数の人間から意見を聞くことはあるが、
最終的判断は一人が下す必要がある。
そして、時間がない場合には、瞬時に決断しなければならない。

また、個人が意思決定しなければならないのには、他にも理由がある。
複数の人間が意思決定をして、命令が複数から出れば現場は混乱する。
命令に従って、直ちに対応できなくなる。
だから、軍隊は命令系統を一本化して誰の言うことを聞くか、厳密に決まっている。
戦場においては、
人が死ぬのも日常茶飯事なので誰が指揮権を継ぐかの順位も定めなくてはならない。

さらに、情報共有化の問題もある。
権力が中央に集中すれば、組織が縦割りになっていくのはやむをえない。
しかし、そうすると情報が局所的にしか共有されず、
必要な情報が全ての組織に広まるのが難しくなる。
現代の日本においても、縦割り組織の弊害がよく語られるようにだ。
この弊害を無くすために、組織いじりがいろいろと提案されるが、たいていはムダである。
それはつまり、情報を処理する量が変わらず、個人の処理する量も変わらなければ、
どう分割した所で問題は起こる。

唯一の解決手段は、そのトップに情報を集中させ、判断をさせることである。
人間はかなり柔軟性があり、処理能力を高めることができる。
処理能力の高い人間に、二つの組織のトップを兼任させれば、
情報を共有することもでき、意思判断も的確になる。
もちろん、そのトップの能力は極めて重要だが、
ある特定の分野なので、能力は十分選択可能になる。
囲碁や将棋などにおいて、はっきりと能力の差がわかるように、
人は分野を絞れば能力を判定できる。
そして、複数の人間より、一人の人間の方が圧倒的な力の差を見せることも。

この結果、指導者も含めて、上の人間たちには極めて高い知的能力が要求される。
彼らがエリートと呼ばれる存在だ。

では、なぜ上と下の間に大きな格差ができるのだろうか。
軍隊で士官と兵隊が厳然と分かれているようにだ。
それは戦争においては、全体での最適性が極めて重視されるからだ。
部分部分での最適化より、全体での最適化の方がずっと効率的になる。
太平洋戦争において、日本の戦略は陸軍と海軍で分割され、
意志統一が全然できなかったと言われる。
資材等の調達においても、別々に実行されムダが多い。
当然のことながら、
一つの指導部を作り統一したシステムで実行すれば効率はずっと良くなったはずだ。
つまり、現場レベルでの最適化より、より上のレベルでの最適化が重要なのだ。
逆に言うと、現場レベルでは、命令に無条件に従うことが重視され、
工夫改善することが忌避されることになる。
その結果、上と下が厳然と分かれるのだ。

つまり、個々の人間の能力がバラバラに発揮されていては、全体としての力を発揮できない。
もちろん時間をかけ、目標を共有して、個人の能力の全てを同じ方向に向けることもできる。
しかし、時間がない場合はそうも言ってられない。
個人の能力の10%でもいいから、全体目標に向かっていく方がいい場合もある。
明らかに、その人間のやる気はスポイルされるだろうが、全体としてはその方が得になる。

結局、このような組織では、上と下がはっきり別れることになる。
上は極限まで、その能力を発揮し、下はやる気がないまま働かされる。
能力、技能の大部分は使われなくとも、あるいは使われないからこそ、
逆に酷使されることになる。

戦争国家においては、国家に属する組織は多かれ少なかれ、軍隊に似ている。
最終目的は戦争に勝つことである以上、目標は定まり、必要な能力は判定できる。
つまり、上の人間が頭を使い、下の人間は命令に黙って従うという、
組織の特徴がここにも再現される。

国家の全ての組織において、これらの特徴は成り立つ。
結果、戦争国家においては、知的エリート階級が必須となる。
戦争国家における知的エリート階級の成立は、さらに色々な特性を産み出すことになる。
それについては次回以降で。

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