異をとなえん |

「中国膠着」感想

2009.02.14 Sat

20:44:50

森一道(もりかずみち)著
『中国膠着 「高成長」を強いられた国家の行方』を読む。

正直読みにくい本だった。
不明確な主張、独自の理論、理論の説明不足、
関連性のあまり見つからない各章などで読みにくい。

また、展開している理論も私には納得できない。
しかし、納得できない部分に突っ込むことで気が付いたことも多く、
よく知らない事実もあって、そういう意味で有意義だった。

不明確な主張と述べたが、一番言いたいことは、
中国が安定のために高成長し続けるという部分だろう。
サブタイトルになっているのが、その証拠となる。
この主張は中国の高成長が内需中心であって、
外需に依存していないという理論に裏付けられている。
だから、アメリカの金融危機によって、
外需が急速に落ちても高成長できるというのだ。
中国の貿易黒字が、基本的に外国資本による、
低賃金労働者の組立産業のせいだというのは、多くの人が同意する。
問題は、それらの産業は中国にとって単なる出島であって、
中国本体の内需とは無関係という主張だろう。
外資による組立産業は膨大な中国人労働者を雇っている。
その中国人労働者に渡される給与が内需を支えているのではないだろうか。
それと、外国資本による投資だ。
そこらへんの説明があって、しかるべきだと思うのだが、その説明がない。
P48では、外需が減った場合、
内需は大幅に落ち込むことはないと主張しているが、その理屈がわからない。
過去の実績から見るととあるが、そこらへんの分析が不十分に見える。

私には、中国の内需の拡大の最大の要因は、
輸出産業が労働者を吸収することによって、
労働者の所得が増えていくことが、
中国の内需の増加の最大の要因に見えてしかたがないのだ。
逆に言うと、輸出産業の労働者の首を切れば、内需は落ち込むように見える。
もちろん、今回の金融危機が中国の成長を止めるかどうかは別の話だ。
中国の膨大な貿易黒字を政府が投資することによって、
8%の成長を達成するのはできるのではないかと私は思っている。

作者は中国が安定のために高成長を強いられているという。
私は逆に中国は安定のために低成長にしているのだと思う。
低成長というのは、ここ数年の10%以上の成長のことだ。
これが低成長というのは、
膨大な貿易黒字とインフレが起こっていない状況からだ。
中国はエンジンフルスロットルで回せば、もっと高い成長をすることができる。
それができないのはボディ、社会構造が持たないからだ。
中国政府がインフレを嫌うのは、インフレによる社会構造の変化を嫌うからだ。
だから、インフレを抑えるために、為替を元高に誘導し、
農村から都市への人口移動を抑制している。
最低賃金を上げていることも、その一つの現れに見える。
最低賃金を上げるのがインフレの抑制につながるかと言うと、
外資はその規制を嫌うから投資が減り、雇用が増えない。
そうすると、今外資で働いている労働者以外の賃金は上がらない。
インフレ抑止になる。
外資で働いている賃金は上昇するので、
内需はそれほど減少しないだろうというのがいい所だ。

この本の中で書いている独自の理論には、
所得格差の拡大の理由付けの部分がある。
P99で都市内部の格差拡大をグローバル化、CtoCに求めている。
この理屈がよくわからない。
グローバル化がCtoCというのもよくわからない。
ここで言うCtoCというのはBtoCとかで使われる用語と同じで、B
が企業、Cが顧客となる。
だからCtoCというのはネットオークションみたいな物を指すのだが、
これがグローバル化と結びつく理屈がわからない。
そこは無視しても、
グローバル化による都市内部の所得格差拡大説明が納得いかないのだ。

都市内部の格差拡大は私には次のように説明できる。
外資による輸出産業が沿岸部に成立することによって、
都市住民の所得は上昇していった。
また、都市の上層部は管理者的な仕事を任せられ、資本の取り分も手に入れて、
所得が中国のレベルでは圧倒的に高くなる。
しかし、都市の賃金の上昇は、他の地域や農村部にも知られるようになる。
結果、人口の移動が起こり、都市の組立産業の労働者の賃金は上昇しなくなる。
この現象が格差の拡大を招いているだけではないだろうか。

悪口ばかり書いてしまったが、最初に述べたように発見な部分もあった。
中国には、
全国にまたがった日本のスター誕生みたいなオーディション番組はないそうだ。
正確にはあったけど、危険だということで当局が禁止してしまった。
中国共産党は、国全体がまとまってなんらかの意志を表示するのを怖れている。
それらもあって、中国が大衆社会ではないというのは、非常に面白い指摘だ。
交通網の整備が遅れているのも、それが理由かもしれない。
できるだけ、人口流動を抑え、国全体としての意志を持たないようにし、
地域でまとまらせる。
それが、農村から都市への人口移動を抑える理由か。
昔わからなかった疑問の一つが解けた。

簡単に中国経済の実態を知りたいという人には勧めないけど、
より深く知ろうとする人にはいいかもしれない。

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