異をとなえん |

「疾駆する草原の征服者」感想

2008.10.17 Fri

03:12:10

杉山正明著「疾駆する草原の征服者 遼 西夏 金 元 中国の歴史 (08)」を読む。
講談社版中国の歴史8巻目で、
タイトル通り遼、西夏、金、元という北アジア史を語っている。

目次は以下の通り。

はじめに 世界史のなかの中国史
第一章 巨大な変容への序奏
第二章 キタイ帝国への道
第三章 南北共存の時代へ
第四章 失われたキタイ帝国を訪ねて-歴史と現在を眺める
第五章 アジア東方のマルティ・ステイト・システム
第六章 ユーラシアの超域帝国モンゴルのもとで
おわりに グローバル化時代への扉

超野心的な作品ながら、結果としては失敗している。
漢民族が野蛮とする事で、過小評価されている北アジアの遊牧民族の歴史を、
唐末からモンゴルの終わりまで描こうとするが、ページ数も足りなすぎるし、
練りも足りない。

たぶん、作者は北アジアで始めて歴史に登場した匈奴から、
現在のモンゴルまでを射程に入れた北アジア史を考えている。
その中で、唐末から始まる、遊牧民族が完全に中国に取り込まれていく過程に
焦点をあてta.。
ただ、ここでの中国は今までの中国ではなくて、
むしろ遊牧民族によって征服された結果新しく生まれた中国なのだ。
遊牧民族と漢民族が一緒になって生まれた新しい国だ。

ただ、はっきり言ってページ数が足りない。
たぶん、時間も足りなかったのだろう。
遼=契丹=キタイを、作者はモンゴルの原型国家として高く評価している。
その最初をきちんと描こうとして、唐末から始まる興亡をかなり詳細に描いているが、
初めてその歴史を知る者には、わかりにくくしてしょうがない。
五代十国を聞かれて、その国名がすらすら出てくる人間でないとお話にならない気がする。
巻末にある主要人物の略伝を読んで、まず流れを把握しないと本文に入れない。

そして、遼の歴史をかなり描いた後、このまま行くと到底予定枚数で終わらないと、
西夏、金の歴史をかなり省く。
西夏はもともとたいした資料がないから仕方がないが、
金の歴史はもう少し描けたのはないだろうか。
もっとも金の資料は漢文資料が中心だと言うことであまり書きたくなかったのかも知れない。

モンゴルの歴史は、流石に手慣れているだけあって、よくまとまっている。
ただ、中国史としてはどうなのだろうか。
漢民族の観点から見た歴史が抜けている。
漢民族という言葉のあいまいさは本の中でもいろいろ批判されているが、
要は南宋に住んでいた人間たちの観点だ。
その視点は今までさんざんあったからという理由だろうが、
中国史としてはやはり要るのではないか。

さらにページ数が足りないにも関わらず、いろいろと他の観点を詰め込みすぎている。
作者による北アジア取材旅行の話とか、いや面白いのだが概説史としてはどうよ、
現代中国批判とか、歴史における環境変化の影響の大きさの問題とかだ。
読んだ印象としてはバラバラなのだ。

杉山史観のファンとしては、いつか出るであろう北アジア史の下書きとして、
鑑賞するのが正しい立場だと思う。
実際刺激的で面白い事は面白い。
それにこの本を先に読んでおくと北方版水滸伝がより楽しめる気がする。
最初に読んだ時は、遼とか金の部分は流してしまった。
もう一度、北方版水滸伝を読み直したくなっている。

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