異をとなえん |

終身雇用制は戦後特有のものか?

2008.08.26 Tue

01:08:24

日本企業の特色として挙げられる終身雇用制は、
戦後に形成された一時的な物で、戦前は違うという話がある。
しかし、戦前は終身雇用制でないと言っても、その前はどうだろうか。
江戸時代の商家は丁稚奉公から始まって暖簾分けと、ほぼ終身雇用制に近い。
武家も江戸時代初期を除けば、あまり藩をちょろちょろ移動してはいない。
そう考えると、明治維新から戦前までの期間がむしろ特殊なのではないだろうか。
そういう観点から、終身雇用制について考えてみた。

戦前は人材の流動性が高かったと聞く。
さもありなんと思う。

人材の流動性が高かった戦前の特色は、
欧米からの知識技術の導入が活発に行われていた事だ。
当時の話を聞いて驚くのは、人々の若さである。
初代鉄道頭の
井上勝
は、1843年生まれで1869年イギリスから帰国してから鉄道のために活発に働いている。
明治維新という大変革の時だから若者が活躍したという事もあるが、
鉄道という日本で誰も知らない物を専門で勉強していた、
その当時たぶん日本で唯一の人間だったからだ。
鉄道を一つの例として挙げたが、
ありとあらゆる物を欧米から導入せざるを得なかった当時、
外国に留学して専門知識を得た人材は極めて貴重だった。
希少な物は価格が上がるという経済学の常識に従って、
彼らの給与は極めて高かったはずだ。
明治維新の最初には、ほとんどの人材は政府に雇われていったが、
その後、会社が生まれ、そこで雇われていく人が多くなった。
それらの人材は有効に使われるために、最も給与の高い所で働いただろう。

まとめてみると、当時の日本にとって欧米の知識技術を持った人間は極めて貴重であり、
給与は高くなった。
当然、引き抜き等も激しく流動性が高い。
また、知識技術等を手に入れる事は有利な投資であり、
明治初期には多大な金額を投資して外国に留学した華族は多くいたし、
その後は大学進学に熱心な人間も多くいた。
つまり、需要の増大が流動性が上昇させ価格を上昇させたといえる。

このような時代は他にあっただろうか。
数値的裏付けは特にないが、
大化の改新以後の時期と戦国時代後半がそうではないかと思う。

大化の改新が始まって以降、
日本は隋・唐から律令制の導入や仏教の導入などで遣隋使、遣唐使を派遣した。
日本から留学生は命を賭けて隋・唐に渡り、各種知識を学んだ。
厳しい道ではあったが、それなりのリターンはあった。
かなり時代は遅れるが、最澄、空海のような新仏教の創始者は唐留学の経験なしには考えられない。

平安時代に入ると、特定の職をある家系が継続して勤める事が多くなる。
この理由は次のように考えられる。
律令制も、ある意味定着して需要が急激に増えるような事はなくなった。
そうすると、給与はあまり変わらなくなる。
教育投資自体を節減したい。
これは雇用者にとっても、被雇用者、つまり朝廷にとっても同じだ。
雇用者は雇ってもらえる事を前提にしてした教育投資が回収できなければ大損である。
教育投資がムダになる可能性を考えると、それに見合った給与がなければ応募しない。
被雇用者は応募がないと困るし、かと言って給与は上げたくない。
結果、投資した金額が確実に帰ってくるように、ある家系に任せてしまえば、
需要は満たせるし、供給もとどこおりなく続く。
経済学的に一つの合理的な解だと思われる。

戦国時代後半も、人材の流動化は激しかった。
天下統一のための戦いが続くようになると、
戦闘技術者の需要は増大し、かつ、能力がはっきり判定でき、危険性も高いとなると、
有能な人材の給与は鰻登りだ。
野心ある人材は、よりいい条件を求めて動いていった。
織田家が羽柴秀吉をはじめとした、素性もわからない人間を雇っていた事は有名だし、
他家も戦いに備えて有能な人材を雇おうとした。

このように考えてくると、需要が急増している知識技術を持った人材は、
引き抜きが激しくなり、流動性が向上し、給与が上昇する。
経済学的に普通の現象だ。

逆に考えると、戦後の終身雇用は各企業が自前で教育投資を行うことによって、
必要とする人材を確保できたことになる。
人材の流動性が高く、確保する費用が高ければ、
自分たちで教育投資をして育成した方が安くなる。
学校等の教育投資が、需要の読み違いや、個人の能力によって、
ムダが多くなる事を考えると全体としても費用が減少する。
学校ではできない生徒でも、金さえ払えば教育は続けるだろうけれど、
企業では役に立たないと判断すれば他に回すだろう。

今後の終身雇用制はどうなるかを考えると、
IT関連などで一部必要な人材が足りなくなって流動性が激しい分野も見うけられるが、
全体的には特別な知識技術で需要が急増しているとは思えない。
だとするならば、日本社会の今までの事を踏襲して終身雇用制は続くと思われる。

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