異をとなえん |

「敬語で解く日本の平等・不平等」感想

2008.07.16 Wed

00:50:57

浅田秀子著「敬語で解く日本の平等・不平等」を読む。
敬語を通して日本人の階級意識を解いている。

目次は下記の通り。

第1章 欧米や前近代の中国では上位者と下位者は断絶していた
―お米がないならお肉のお粥を食べれば?
敬語と敬語はどういう関係にあるのか
中国人は死んだら終わりと考える
中国語の敬語は自己品位語から礼儀語へと変わった
神の前においてすべての人は平等である
一神教世界において現世は不平等である
欧米や前近代の中国では上下の交流はありえなかった
欧米語には階級確認の言葉と礼儀語がある
欧米や前近代の中国では上下の断絶がコミュニケーションの不在を生んだ

第2章 日本では有史以来幕末に至るまで上下の交流があった
―お代官様がおやめにならないかぎり、われわれは未来永劫村へはもどりません
日本人の平等意識は不平等意識とイコールである
日本人は先祖とのつながりを重視する
日本人は死ねばホトケになる
日本では神の系譜と人の系譜がつながっている
倭建命(やまとたけるのみこと)の歌に答えたのは火焚きの老人であった
民の暮らしのためなら雨漏りもいとわない
天皇は大工の死罪を許したばかりか処刑を懸命に止めた
天皇から貧民・兵士・罪人まで
民の苦しみと救いたい
『古今集』は貴族だけの歌集ではない
召使の少女に恋した貴公子の話
一夫多妻制は上流と下層の血をかきまぜる効果があった
平安時代の貴族と庶民は十分に情報を交換し合っていた
傀儡女(くぐつめ)に今様(いまよう)を習った後白河院
地頭と代官と百姓たちのかけひき
主君と家来の化かし合い
下剋上の世にも独裁者は身分を超越する場をつくった
地上にパラダイスを現出させた高山右近
江戸時代の農民や町人は武士に抑圧されていたか
老中の命令を引っ込めさせた銭湯組合
弥次さん喜多さんは実は親分子分であった
日本社会は有史以来幕末まで上下の対等な交流が連綿と続いてきた

第3章 敬語は上位者と下位者をつなぐかけがえのない橋だった
―羽をください、若王子の神様
日本人が対等に扱えたのは「日本語人」だけであった
「ソト=自然」は恐ろしく尊いものである
日本人は遠いところのものにどうやって訴えを伝えるか
ウタフと丁重になる
ウチ・ソト認識から上下認識へ
ウタが歌になったとき敬語が生まれた
なぜ敬語を使うのか
敬語を使えば何でも言える
敬語を使うことは上位者・下位者の身分・階級を遵守すること
階級遵守語からエチケットのための礼儀語へ

終章 敬語が日本の行く末を決める
―すみません、その傘を向こうへやっていただけませんか
なぜ明治から終戦までの時代は下位者が何も言えなくなったか
田中正造の挫折は伝統的な階級秩序の崩壊を象徴した
日本人の礼儀語不足
日本の未来はわれわれの使う敬語にかかっている

第1章は、中国語や欧米語での上位者と下位者のコミュニケーションにおいて、
使われる言葉の状況について説明する。
通常、上位者と下位者のコミュニケーションは断絶している。
コミュニケーションが存在する場合においても、
敬語のような形式化されたものではなく、
個別な状況によって、言葉を使わねばならないとする。
なかなか面白いのだが、具体的な言葉の例が少いので、本当らしさに疑問を感じる。
むしろ、例がない上位者と下位者の言葉が違っていたので、
コミュニケーションがなかったという方に正しさを感じる。

第2章は、日本語における上位者と下位者のコミュニケーションにおいて、
使われる言葉の説明だ。
この章が一番長くて、かつ一番楽しめた。
日本人の間では敬語を使う事によって、上位と下位の隔てをなくして、
平等につきあつ事ができると、主張している。
ただ、作者は「上流階級と下層階級の厳然とした区別が存在し」(p157)と、
述べているが、私には上流階級と下層階級にそれほど差がなかったから、
敬語が発達し、コミュニケーションできたように思える。

第3章は、敬語の起源論だ。
評価不能である。
神への呼掛けが敬語の始まりとかいう話だが、
もっともらしいけど、こんなこと論証可能なのかという感じだ。

終章は、敬語の不在を嘆いている。
明治維新から終戦まで、
上位者と下位者の間にコミュニケーションの断絶が起こったとする。
これは、上位者が成り上がりだったからと説明するが、
あまり説得力はない。
敬語の話も出てこない。
西洋の侵略に対応するのが、最優先事項になったから、
下位者の言い分を聞けなくなっただけだ。

総じて、敬語によって平等が達成されたというニュアンスなのだが、
逆に平等だからこそ、敬語が生まれたと思う。

本の中(p217)で日本人が欧米人の秘書に"Type this."と言って、
機嫌を悪くさせる話がある。
"please"とか"would you……"とか言わなくてはいけないそうだが、
語彙が乏しいのだから、ある意味仕方がない。
自分の意思をまず伝える事で精一杯なのだ。
下位者だって、ご機嫌を取ろうと丁寧に言っても始まらない。
丁寧に言ったら言葉がわからないので、最わかりやすく言えと、
怒鳴られてしまう。
こんな状況で敬語が生まれる訳がない。

欧米や中国では征服王朝の歴史が長い。
そうすると言葉がわからないので、対話もへったくれもない。
敬語はできないことになる。

日本語の敬語は上位下位の構造がある中で、
できるだけ平等にコミュニケーションを取るために生まれたという話には、
納得できた。

本のメインではないが、
キリスト教の一夫一妻制が階級を固定してしまうという話は感心した。
夫と妻が同一階級の場合、血が拡散しないので、いつまでも離れたままなのだ。

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