異をとなえん |

真似される文明 - 「日本文明・世界最強の秘密」感想(その2)

2008.03.15 Sat

16:02:24

「日本文明・世界最強の秘密」を読み直すと、思っていたより凄い本な気がしてきた。何が「凄い」かというと、この本によって始めて日本の良さというものを世界に伝えるためのマニュアルができた。それと同時に地方格差論に対抗する理論的支柱になっている。つまり、日本が始めて生んだ世界レベルの思想書かもしれない。そして、日本は真似される文明になれる。

日本はすごい国だと主張する人はけっこういる。一昔前だと「ジャパンアズNO.1」という本があって、我々の気持ちをくすぐってくれたものだ。現在の経済停滞状態でだいぶ減った気もするが、最近でも日下公人氏などは世界は江戸化するとか主張している。

しかし、今までは日本みたいになりたいから教えてくださいと言われても、どう教えていいかわからなかった。日本の資本主義は欧米の資本主義と違うと主張しても、法律とかは欧米と一緒だし、なぜ違ってくるのかが自分たちもわからない。他の国に教えようがない。あげくの果てに、日本は2600年の歴史を持つ万世一系の天皇が治める国だとか言ったら、学ぶ方ではどうしようもない。「できたばかりの俺たちの国で2600年の歴史なんてどうすればいいんだ。真似しようがない。」と思うのが落ちである。私の知るかぎりでは、日本という国の良さを他の国が真似するには、どうしたらいいかを教えている本は一つもない。

この本を読めば、日本の良さを学ぶには鉄道網を作りなさいと教えることができる。わかりにくさはない。実行すべきことは、はっきりしているし、エネルギー効率が上がるという目標もある。鉄道網を生み出すには日本社会の構造が必要だったかもしれないが、鉄道網を真似るにはそんなものはいらない。石油価格が上がり続けるかぎり、エネルギー効率を上げる方法である鉄道網を採用したがる国は多いはずだ。

外に対して主張できるということは、内に対しても主張できることである。地方格差の問題が、現在いろいろ盛り上がっている。東京一極集中への反対は根強い。しかし、エネルギー効率や地球温暖化の問題を前にすると、個人の通勤用の自動車が非効率である事は疑いないように思える。地方の所得が都会の所得に比べてより低い時に、維持費が極めて重い自動車を保持する事は難しい。公共工事費を多額に回す仕組みがない限りこれは持たない。東京の一極集中が問題ならば、大阪、名古屋、札仙広福のような地方の拠点都市に移住すればいい。

本の中で、田中角栄の「日本列島改造論」に誰も反対する人がいなかったことを記述している。筆者はエリートによる大衆支配の観点から反対論がなかったと言っているが、むしろ、反対する思想家、理論家がいなかったから、誰も反対しなかったのだと思う。自分たちの心の中で奥深く感じている事でも、それを言葉にして現さなければ、現実には発現しない。言葉があるからこそ欲求が生まれるのだ。

マルクスは偉大であった。国家は、古代奴隷制、中世封建制、近代資本制と進化し、最終的には共産制に至ると主張した。この思想が正しいが間違っているかは問題ではない。この思想を正しいと信じたからこそ、ソ連が生まれ、中華人民共和国が生まれた。マルクスの言う下部構造が思想を規定するのではなく、思想が下部構造を作り出していったのだ。思想にはそれだけの力がある。

鉄道網による都市こそが、今後の文明の形であるという思想は世界史的意義がある。筆者は日本だけがそれをなしえたと主張しているが、私はそうは思わない。今まで、欧米の都市が車中心だったのは、エリートと大衆の階級社会だからというのは一理ある。しかし、同時に鉄道中心の社会であるべきだという理論がなかったからでもある。その理論があれば、世界はその方向に動いていくかもしれない。

世界が真似をしたら、日本はその優位性を失なうと考える人もいるだろう。しかし、真似をされれば、その関連の物をずっと輸出する事ができる。電車、鉄道システムの輸出だけではない。たとえば、自動販売機がある。自動販売機は世界で日本しか普及していないみたいだが、一般に治安の悪さが原因だと考えられている。鉄道網による都市が治安の悪さを、特に中心部において抑えることができるならば、自動販売機が普及していくかもしれない。

また、日本では高品質の商品が多いと言われている。その理由は、次のようなものだろう。大量に人口が集中しているから、その部分で非常に多様な商品が売れる。その中には高価だが高品質な商品が含まれる。消費者はいろいろな商品を使うことによって、品質の目利きができるようになり、価格に見合った品質の商品を買っていくことになる。品質の評価も人様々だから、結果として幅広い商品が売れていく。

大きな都市がなければ、小さな市場では価格が一番の要因になって、高品質の商品が売れにくい。高品質の商品がなければ、そもそも高品質の商品を欲しがる消費者が生まれない。この悪循環によって、いつまでも安くて低品質の商品しか売れない。低価格が売り物のウォルマートが、アメリカで最大の都市であるニューヨークに店を持っていない理由だ。日本風の高品質の商品が世界で売れるようになれば、その利益はとてつもなく大きい。

真似される文明とは凄いことなのだ。日本は真似される文明国になったことがない。真似されるとは世界から尊敬されるということだ。この本は世界から尊敬される日本という望みを与えてくれる。

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