異をとなえん |

コストプッシュ型インフレに対して金融緩和政策を取る?(その2)

2008.02.07 Thu

03:25:03

コストプッシュ型インフレに対して金融緩和政策を取るのコメントから、原油価格が上昇していて、金融緩和政策が無効な場合として、次のようなモデルを考えてみた。

A国とB国があって人口は各々100人ずつとする。A国は50人が小麦を作っていて、残りの50人はその他の産業で働いている。小麦の生産量は200人分で、この世界では食べられる物はこれしかなく、これ以上の量もこれ以下の量も消費しない。小麦の生産にはB国で生産される石油が必要で、それ以外は必要としない。B国では、50人が石油を生産していて、残りの50人はその他の産業で働いている。石油の生産には人力だけが必要とする。B国は石油、その他の物品をA国に輸出し、A国は小麦、その他の物品を輸出していた。

ある時、B国での石油の生産性が悪化し、一人当たりの生産量が3分の1になった。この場合、この世界での産業構造が最終的に以下のようになるのは自明だろう。A国からB国に50人が移動し、150人で石油を生産し、A国では50人が小麦を作り続けることになる。移民制限があって、B国が100人で石油を生産し、A国が約33人で小麦を生産して、66人が餓死するケースもあるが、それはまあなしとする。石油の生産性が低下した事によって、全員が奢侈品を一切手に入れられない生活になったことになる。

この過程がどう進むかと言うと、石油の生産性が低下した事によって石油の生産量が減少し、価格が暴騰する。A国では石油の価格が暴騰し、結果小麦の価格も暴騰し、その他の製品の価格は相対的に安くなる。この過程はその他の製品の価格が0に近づき、誰一人として生活できなくなるまで続く。そして、食べるために、B国に移民をすることになる。

さて、問題はこのような世界でA国が金融緩和政策を取った場合である。最終的にその他製品の価格が0に近づく事は自明だから、小麦の価格がどんどん上がり続けるだけになる。この場合金融緩和政策はA国の中で一時的な錯覚を起こすだけで意味がないことになる。

極端な事例を取ったが、B国での石油の生産性が2分の1になったとしても、A国とB国のその他製品を作っている中から50人が生活できなくなり、B国の石油産業に移動するはずである。そして、その分の生産物が少なくなっただけ、人々は貧乏になっている。この場合の金融緩和政策も、A国で移民しなければならないほどの状況になるならば、小麦の価格が上がり続けるだけの結果を起こすだろう。

これらの事から類推するに、リフレ政策が意味を持つのは経済成長している場合だけである。長期的に見れば経済は成長するという信念は私も持っているけれど、短期的には経済が縮小している状態はありえる。その場合、バブル崩壊後の日本経済のように金融緩和政策は意味を持たないのではないだろうか。

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コメント

18 この例だとマクロ政策全体がそもそも無関係では?

ご提示のモデルでは、価格の硬直性が入っていなくて、実現GDPが潜在GDPを下回る事もないのですから、マネーはそもそも不要で、各々の製品の間の相対価格を表すための媒介にすぎませんね。

この、ミクロ経済学的なモデルだと、たしかにマクロな金融緩和は意味がありませんが、同様に金融引き締めも意味が無いでしょう。マネーはなくても同じなのですから。


おそらく、おっしゃりたいのは「生産が減るのなら、通貨供給量も減らすべきだ」ということでしょうか。ご提示のモデルでは、原油の供給曲線も小麦の需要曲線も垂直という特殊なモデルで、均衡もへったくれもない(最終的には、2つの垂直な線が重なるので、価格も定まらない)わけですが、現実の場合にも、供給ショックで生産が減る事はたしかに考えられますね。

たとえば、国内のある産業で労働の物的生産性が急激に悪化した場合。このとき、その産業の生産する製品の数量は減り、相対価格は上がるでしょう。その産業での労働需要が高まり、場合によってはインフレが亢進して引き締めが必要になるでしょう(コストプッシュインフレ)。

気をつけていただきたいのは、労働の価値生産性(単位労働投入あたりの付加価値)は必ずしも下がらない事、インフレのスパイラルが回るとしたら、完全雇用の状態で賃金(=労働の限界価値生産性)が上昇していくという事です。こういう状況でも金融緩和しろというリフレ派はいないでしょう。

一方、今の現実は、4年前と比べて原油価格が3倍になっていますが、輸入量はほとんど変わっていません。これだけで生産が減る必然性はありません。

また、日本の失業率は高く、完全雇用とはいえない状態です。低下していた失業率の変化も横ばいになり、有効求人倍率は1倍を切りました。労働需要がひっぱくして賃金が上がる状況とはいえません。また、以前に述べたように原油高は付加価値価格を下げる要因ですから、雇用に悪影響を及ぼします。

デフレが悪いのは「賃金に下方硬直性があって、失業が生じてしまう」ためです。フィリップス曲線が垂直になる完全雇用の状態でのインフレは引き締めるべきですし、曲線が右下がりの、失業が存在する部分でのインフレは歓迎すべきことです。現在は、曲線が右下がりの部分で、さらにデフレが激化しつつあるという点で、金融緩和は当然と思えます。

原油高とか、生産性悪化とかのショックによって金融緩和すべきかどうかの方向性を判断する基準としては、
・完全雇用の状態かどうか
・雇用を減らす(国内の名目賃金を引き下げる)方向のショックか、増やす方向のショックか
ということだと思います。

ご提示のモデルでは、失業とか賃金の硬直性といった短期的な要素が入っていない、長期的な均衡しか扱えないと思います。

長々と失礼しました。

19

lukeさんへ

どうも、いつもコメントありがとうございます。勉強になります。

私の提示したモデルの批評に納得できない部分もありましたので補足してみました。

「ご提示のモデルでは、原油の供給曲線も小麦の需要曲線も垂直という特殊なモデルで、均衡もへったくれもない」

小麦の需要曲線は確かに垂直で、結果原油の需要曲線も垂直になります。しかし、原油の供給曲線は一人当り生産量が一定なので水平に近い線になるのではないでしょうか。普通の場合には労働者の中には原油産業に就職するより稼げる人もいるだろうから、右肩上がりになるのでは。だから、均衡点はあると思います。この場合、B国の労働者の賃金の最低値になっていいのでは。誰でもできる事を仮定しているので、そうでない場合はみんな石油産業に参入してしまう。

「ご提示のモデルでは、価格の硬直性が入っていなくて、実現GDPが潜在GDPを下回る事もない」

価格の硬直性というのは、賃金の下方硬直性と取っていいのでしょうか。なんか違うような気もするけれど、一応賃金の下方硬直性はあるつもりです。A国もB国も小麦産業と石油産業以外は普通の経済を仮定しているので、失業もあるだろうし、実現GDPが潜在GDPを下回っていることもあるでしょう。こんな変な経済だと成り立たないのかも知れないけど、私には特にダメな理由はわかりませんでした。

モデル以外の部分の話についてはちょっと考えてみます。後、私の話は現在の日本を想定したものではありません。今の日本の現実については引締める必要性がないと私も考えています。

ありがとうございました。

22

>しかし、原油の供給曲線は一人当り生産量が一定なので水平に近い線になるのではないでしょうか。普通の場合には労働者の中には原油産業に就職するより稼げる人もいるだろうから、右肩上がりになるのでは。

右上がりの部分もありますが、右端で垂直になりますよね?

原油の需要曲線も、(小麦の需要曲線が垂直なので)右下がりの部分と、左端の垂直な部分とから成りますよね。

原油の供給曲線全体が左シフトして、需要曲線の垂直な部分と重なってしまうというのが、今回のお話の本質かと思ったのですが。

>一応賃金の下方硬直性はあるつもりです。

ああ、すいません。「陽には入っていない。」というべきでした。

長期的な(均衡点での)労働人口については数量で答が出ますが、失業率や金利(マネーサプライ)については数量が分からないのではないでしょうか。

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