異をとなえん |

グローバリゼーションがなぜ戦いを生むのか

2013.02.20 Wed

21:30:54

「メリットの有無と戦争」を読むと、グローバリゼーションが進んで国家間の経済的相互依存関係が高くなっても、戦争の危険性は低下しないと主張している。

引用開始

中国のメリットのなさで最大のものは、経済的な理由です。グローバル経済と密接に結びついている中国は、もし武力行使すれば、敵に与える以上の経済的打撃を受けかねない、いや確実に受けます。そんな非合理な自滅行動をとるとは、常識的に考えられません。国家間の経済的相互依存関係が高いグローバリゼーションの時代に、主要国間の戦争はありえないように思えます。

しかしそれは誤謬です。経済のグローバリゼーション化は現代の専売特許ではありませんし、むしろ史上最大の戦争は、グローバリゼーションの時代に起きました。それは第一次世界大戦です。
引用終了

基本的には同意するのだが、むしろグローバリゼーションの進展こそが戦争の危険性を増加させているのだと思う。
正確には、グローバリゼーションの進む時代、国家間の相互依存関係が深まっている時代、戦争は起こらない。
グローバリゼーションが飽和点に達し逆回転を始める時、戦争が起きやすくなる。
グローバリゼーションによって覆い隠されていた矛盾が噴出するためだ。
その理由を書いてみる。

参照記事:覇権国の交替理論

グローバリゼーションが進んでいる時は、みんながハッピーな時代だ。
先進国の資本と技術、発展途上国の低賃金が結びつくことで大きな成長がうまれる。
先進国では発展途上国の労働者が低賃金で働くことによって、より安い製品を消費できる。
生活が豊かになる。
発展途上国では新しい働き口が生まれることで、今まで生産性の低い仕事をするしかなかった人間がより生産性の高い労働に従事できるようになる。
こちらでも、同じように生活が豊かになっていく。

しかし、永遠と思われるグローバリゼーションの時代もたいていは長くは続かない。
市場の飽和によって成長に限界が生じるからだ。
発展途上国でも成長が続けば労働者の枯渇が生まれる。
低賃金では雇えなくなり、高い賃金を支払わなくてはならない。
中国でまさに生じている事態だ。
先進国と発展途上国と分けることなく、世界全体で資本と労働の分配率が変化し、労働の分配率が上昇してゆく。
資本の利益が減少するので、資産の価値が暴落し、恐慌状態が発生する。

恐慌状態が発生するかどうかは、微妙なタイミングもあって確定しなくとも、市場が飽和すれば保護貿易主義的な立場が台頭するのは確かだろう。
人件費が同じならば、輸送費を負担してまで世界の端から輸入するメリットはなくなる。
自国の労働者を利用した方が経営としては、ずっと楽だ。
法律や文化の面倒もない。
ただ、産業を自国に戻すということは本質的に安い労働力を使えなくなる話なので、先進国の消費者の効用は減少することになる。
資産価格の下落、消費者の効用の減少は最終的に需要の低下を招き、全体としては停滞局面に入っていく。
そうすると、国家が共同体としての側面を維持しているならば、自国の失業者の面倒をみたい意識が強くなっていく。
その一番簡単な方法が保護貿易に走っていくことだ。

保護貿易が広まり始めると、新興国を中心に不満が強くなる。
不満が強くなる最大の理由は、設備投資のムダが多くなることだ。
市場が急成長しているとき、投資は激しく増えていく。
投資が投資を呼ぶ時代ならば、高度成長も可能になる。
けれども、需要が飽和すれば市場の成長は止まり、急激なショックを投資に与えていく。
高度成長を前提とした投資は成長が止まると、設備が全然稼動しなくなっていく。
設備に投資した資本家たちは不満を持つが、保護貿易が広がれば、それが原因だと思いはじめる。
グローバリゼーションの時代というのは、新興国で最新最大の設備投資がおこなわれる時代。
新興国は先進国の保護貿易化に激しく不満を持っていく。

今回のグローバリゼーションの最大の受益国は中国だった。
中国の一人当たり所得は世界有数のスピードで上昇し、中国に投資された資本は巨額にのぼった。
粗鋼の生産量が世界の半分の7億トンまで増えたことは、その現れだ。
中国の鉄鋼生産は輸出よりも国内で大量に消費されていた。
でもそれは未来の輸出のために必要な設備投資と解釈できる部分も多いはずだ。
逆に言うと、輸出が伸びなければ、設備投資も減り、鉄鋼の消費も減る。

変な話だが、日本でバブルの時に家を買った人と似ているかもしれない。
不動産の価格が高騰することで、ローンを組んで家を買った人たちは多かった。
でもばら色の未来は続かず、不動産価格は大幅に下落し、ローンを組んだ人たちは何年も返済を続けなければならず、必死に働かねばならなかった。

中国人も今まで低賃金で働き続け、やっと自分たちで資本を手に入れ、こき使われることがなくなったと思ったら、保護貿易によって仕事がないといわれる。
先進国に多大な不満を抱くのは当然ではないだろうか。
さらに中国は目に見えないコストを多大に払っている。
環境汚染がその典型的な例だ。
環境投資へのコストが安いことも含めて、中国は自国に投資を誘致してきたからだ。
中国の自業自得でもあるのだが、日系企業の生産が大気汚染の原因であると言われれば、一部はあてはまるだろう。
結局中国国民は未来の期待で働いてきたのに、現実になる直前で先進国に裏切られたと感じる。
これがグローバリゼーションが限界点に達したとき戦争が起きやすくなる背景だ。

「メリットの有無と戦争」では、第一次世界大戦前はグローバリゼーションの時代だとした。
基本的には合っているのだろうけれど、同時にグローバリゼーションがまさにかげりを見せ始めている時代だ。

通商白書2002からの一節は次のようにある。

引用開始

 イギリスでは、16世紀以降、重商主義政策が行われていたが、次第に海外市場拡大による規模の利益を求めて自由貿易推進が主張されるようになり、相手国の自由化の程度によらない一方的貿易自由化の姿勢が見られる様になった。一方、国際的に自由貿易が確立されたのは、1860年の英仏通商条約の締結が契機とされ、その後、イギリス、フランス両国は主要な欧州諸国と相次いで同様の通商条約を締結し、相互の関税が引き下げられ、欧州に自由貿易網が張りめぐらされた。
 しかし、上述の自由貿易の動きは1870年代からの大不況を境に停滞し始め、大陸諸国は保護主義政策へ転換するようになった。オーストリア・ハンガリー、ドイツ、イタリア、フランス等が1870〜90年代にかけて次々と高関税を導入した。また、この時期の米国の通商政策は、1)高関税、2)条件付き最恵国待遇、3)「公正」原則の強さ、4)低い貿易依存度の4つの点に見られるように、他の西欧諸国よりも保護主義的な政策をとっていた(第1-1-6表)。
引用終了

通商白書2002第1-1-6表

第一次世界大戦直前に多くの国で関税を上げ、自由貿易を目指すよりも保護貿易主義的な立場に変更したことが見てとれる。
グローバリゼーションの時代からブロック経済の時代に突入したといえよう。
この内在的な不満こそが、戦争を起こしやすくする背景なのだ。

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コメント

310

失業者が発生するのは、賃金の自然な低下を、政府が邪魔するからです。
政府が何も邪魔をしていない自由市場では、商品価格は需要と供給のバランスがとれる価格に自然に下がりますから、恒久的に売れ残ることはありません。
その商品が労働力である場合も、同じです。

こちらも、参考に、

平和の敵は政府
http://d.hatena.ne.jp/KnightLiberty/20120930/p1

311 Re: 失業者が発生するのは

muuさんコメントありがとうございます。
反論を記事として書いてみました。
それでは。

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556 続:グローバリゼーションがなぜ戦いを生むのか?

前回の記事のポイントは、グローバリゼーションが逆回転し始めると失業者が発生するので、先進国は失業者を抑えるために保護貿易に走り勝ちになり、新興国はそれを不満に持つので戦争が起きやすくなるというものだった。 そこに「失業者が発生するのは、賃金の自然な低下を、政府が邪魔するからです」というコメントをもらった。 読んだだけでは真意がわからなかったのだが、