異をとなえん |

続:なぜケインズ政策を取ると保護貿易に傾くのか?

2012.11.01 Thu

21:18:16

前回の記事の続きだ。

ケインズ政策を取ると保護貿易政策に傾きがちな理由を説明したが、自由貿易の方が国民にとって経済的に有利であることとの理論的な整合性の説明をしていなかった。
その部分を補いたい。

資産価格下落による大規模な不況が発生した場合、政府支出の拡大を実行しないと、総需要の減少による大規模な縮小均衡スパイラルが起こる。
製品を作っても売れない。
企業は売れないので労働者の首を切るとか賃金を下げたりする。
そうすると労働者の所得が下がるので、消費はさらに下がり、生産はさらに減っていく。
理屈としては、所得が下がっても消費を減らすことができないところにいけば、均衡するはずだ。
私がここで述べたいのは、均衡するかどうかの話ではなくて、賃金が下がるという部分だ。

自由貿易の理論的基礎である比較優位の理論は、要は賃金5万ドルの仕事と1万ドルの仕事があって、1万ドルで働いている労働者が5万ドルの仕事に移動し、1万ドルの仕事は海外に発注しすれば、みんな幸せになるという話だ。
逆に言うと、賃金5万ドルの仕事がなくなって1万ドルの仕事に戻らなければならない状況になると、海外の発注は取りやめ貿易は縮小という話になる。
資産価格下落の不況では賃金が下がるのだから、政府の介入がなければ自然と輸入が減って輸出が増える。
厳密に言うと貿易相手国も不況に突入すれば、輸出は必ずしも増えないが、輸入はほぼ確実に減少する。
重要なのは、保護貿易政策を取らなくても、貿易が縮小するという話だ。

だからケインズ政策を取らず、均衡財政を守っているならば保護貿易政策を取る必要はない。
自然に保護貿易政策と同じ効果が働いていく。

しかしケインズ政策を取ると状況は変わってくる。
赤字財政による支出で労働者の総所得を守れれば、消費が維持される。
総需要と総供給は均衡して、縮小スパイラルに陥ることはない。
しかし、労働者の賃金が維持される以上、貿易は前と同じ状態を保とうとする。
賃金が安い仕事が海外に発注され続けるわけだ。
これは実はつらい。
未来の人間に負担を繰り越してまで失業者を守ろうとしているが、この失業者を輸入品の生産という働かせる価値がある仕事につければ、その分未来の人間の負担を減らせるからだ。
だから、ケインズ政策と保護貿易政策を組み合わせて、総需要を維持しつつ、これは賃金を維持しているのと同じ意味だが、労働者が輸入品の代替生産をできる状態を作り出したい。
保護貿易政策を取れば、賃金を下げずに輸入品の代替生産ができるわけだ。
輸入品を国内生産に変えることで、価格は上昇し、保護貿易政策による国民の損失が発生するけれども、この損失は国民から失業者への援助なので許容できる。
ケインズ政策自体が国民から失業者への援助だからだ。
これがケインズ政策を取ると保護貿易に傾く理由になる。

なんかうまそうな話だけど、もちろんそうではない。
国内だけを重視すると成り立ちそうでも、外国のことを同時に考えると破綻してしまう。
保護貿易政策によって輸入を制限すれば、その相手国は当然不景気になる。
当然その相手国への輸出は減る。
輸出が減れば、その部門の労働者の賃金は減少するということで、ケインズ政策によって防いだはずの縮小均衡スパイラルが再度発生してしまうのだ。
つまり世界経済全体で考えると、ケインズ政策によって需要を維持しようとすれば、保護貿易政策は取れない話になる。

アメリカの現状はまさにその通りだ。
1兆ドルを越える巨額の財政赤字を出しながら、失業者は8%近辺で、しかも経常収支は大幅な赤字だ。
未来の国民負担を増やしているのに、一部の労働者は遊んで、外国から輸入した物を消費することになる。
感覚的にはスペイン没落の時に近いのだ。
莫大な軍事費を消費しながら、生産もせず、外国からの生産に頼っていく。
アメリカと瓜二つだ。
他国からの輸入物に頼って生活しているのに、働かないではいつまでも維持できる政策ではないだろう。

この現状を打破するためには、ケインズ政策をやめるしかないのだが、それは直ちに不況を起こす。
どうにもこうにも詰んでいる。

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