異をとなえん |

電王戦展望

2013.03.21 Thu

22:07:32

いよいよ今週の土曜日から電王戦が始まる。
初戦に登場する習甦も長時間floodgateにようやく登場した。
そこで衝撃が走る。
習甦は序盤から時間使いまくっていて、なんと定跡データベースを使っていない。
横歩取りの将棋で先手が飛車先の歩と取る手に10分以上かけている。
対局相手のPuppetMasterが定跡を抜けたのは20手前後だが、そこまでで習甦は1時間以上使っているのだ。
二日後が本番なのだから、今回の対局は本番用ソフトとマシンの最終確認のためと見るのが妥当だ。
そうすると本番も定跡データベースを使わないで指すつもりなのだろう。
本当にそうなったら、ある種異様な対局風景になりそうで、いきなりわくわくしてきた。

定跡データベースを使わないというのは、普通に考えれば悪手である。
定跡を最善手と仮定してその中からランダムに選択する、現在の使用法では問題も多い。
定跡と言っても基本的にはプロが複数回指した手を集めただけだ。
だから、定跡だけど実は優劣がはっきりついている場合取り返しがつかなくなる。
ボンクラーズが角換わり腰掛銀同型から何度も負けていたようなパターンだ。
それを考えると、最初から自分の実力で戦うのは一つの方法だ。
ランダムに選んだ定跡が悪くて負けた場合の後悔がなくなる。
習甦が定跡データベースを使わない選択をするならば、やはり自分の実力で勝負するという側面が強いのだろう。

しかし、定跡データベースは再構築できる。
末端の局面を評価して、評価値をデータベース上に持つようにするならば、悪い局面をたまたま引き当てるようなことはなくなる。
事前に着手の思考をするようなものだからだ。
定跡データベースの全ての着手の評価値を求めるのが大変ならば、小さくしたデータベースのみで評価すればいい。
矢倉や角換わりの将棋みたいに長い定跡は落として、10手ぐらいの局面だけで評価値を設定すればそれほど手間をかからない気がする。
少なくとも横歩取りの2四の歩を取る手に10分も使うのは時間の無駄だ。

習甦はともかくとして、他のソフトは定跡データベースを使ってくるだろう。
そうするとどういう定跡を選択するかが、一つの興味対象となる。
長時間floodgateの対局を見ていると、少なくともgps将棋は居飛車を選択する可能性が高い。
gpsfish同士の戦いを見るかぎりでは、相掛かりか横歩取りの戦型ばかりになっていた。
双方ができるだけ評価値が有利になるように努力する結論が、相掛かりが横歩取りなのかもしれない。
振り飛車の将棋は飛車を振った側の勝率が高くなさそうなので、コンピュータは避けそうだ。

コンピュータ将棋ソフトとプロ棋士の対局予想では、コンピュータには時々わけのわからない疑問手を指すからプロが勝つという意見が多くある。
今回のgps将棋に勝ったら100万円のイベントでは、東大香得定跡という、gpsfishが香損をして攻めてくるというパターンが見つけ出され、人類が中盤まで優勢に進めている将棋がたくさんあった。
プロがその後を指しつげば楽勝というわけだ。
しかし、それは簡単に起こらないのではと思う。
まず、今回のgpsfishの不利なパターンが発見されたのは、公開されているソフトをそのまま使い、環境も大体似通った形で再現できたからだ。
電王戦本番ではソフトもマシンも最新のものにあげてくるだろう。
そうすると、現在の対局で見つけた問題の着手は再現されない可能性が強い。
もう一つの起こらない理由は、コンピュータが疑問手を指したのは時間が短かいからという可能性が高いからだ。
ネットでは思考時間を延ばせば指さなくなるという意見も出ていた。
本番の電王戦では4時間という持ち時間がある。
コンピュータが序盤で疑問手を指す可能性は少なくなっている。

コンピュータの弱点として、入玉の将棋が苦手というのは一番にあげられる。
実際去年の将棋ソフトで入玉対応をきちんとしているソフトはなかった。
けれどもgpsfishはかなりのところまで入玉模様の将棋に対応してきている。
実際今回のgpsfishとアマの対決では、旧バージョンを使ったときの例外を除けば、入玉でgpsfishが負けている将棋はない。
むしろ、前に指摘したアマが入玉直前に頓死した将棋では、gpsfishは非常にうまく指していたと思う。
相手が一気に入玉に成功したとしても、できるだけ相手の駒を減らし、大駒を取ってしまえば、宣言勝ちは十分に起こせる。
そういう意味で入玉をとにかく目指すという戦略は破綻しつつあるだろう。

今までコンピュータの弱点というものは既に改善されつつあるという指摘をしてきた。
それでは人類に勝ち目はないのだろうか。
そうでもない。
コンピュータ同士の戦いを見ていると、当たり前だがどちらのソフトもミスをしないということはありえない。
形勢判断が真っ二つに分かれていれば、どちらかのソフトがミスをしていることになる。
最近のfloodgateでそんな将棋の典型例があった。
PuppetMasterとgpsfishの対局で、gpsfishは最後の一手が指されるまで自分の方が勝っていると信じていた。
それがPuppetMasterの最後の手で自分の玉には必死がかかってしまい、相手玉は詰ますことができないことがわかって投げている。
gpsfishは時間がたくさんあったにも関わらず、その手を見落としていた。
gpsfishの詰みルーチンが入っていないことなどが理由かもしれない。
本番ではそこらへんも改善されてきているだろう。
けれども、詰めろ逃れの詰めろから必死に持ち込んで勝つような将棋では、最終的な判断がつくのに手数が非常にかかる可能性がある。
コンピュータはそういう手数が長くなる将棋に弱いのだ。
人間は相対的に強い。
そういう将棋になって、人間が勝利する可能性もあるのではないかと思う。
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