異をとなえん |

松本さんとgpsfishの対局感想

2013.02.27 Wed

21:57:27

電王戦の前哨として、ニコニコでコンピュータとアマの将棋対局が放送されている。
詰め将棋メモに必要なリンクは全てはられているので参考にして欲しい。
コンピュータに勝ったら100万円の賞金が出る。
持ち時間15分、切れたら30秒の秒読みというルールでは、人間にほとんど勝ち目がないと見ているのだが、善戦していた人がいて驚いた。

善戦した人は松本さんというのだが、ブログのアンチコンピュータ戦略の記事はコンピュータ将棋について参考になることが多いので、よく見ている。
その中で作戦を持って対局に行く話が載っていたので、気になっていた。
対局は事前に用意した作戦がピタリはまって、優勢になった。

アンチコンピュータ戦略(23)

gpsfishがはまるのは思考時間が足りないらしい。
浅い読みの部分で良しと判断してしまう。
もっと時間をかければ手が変わるみたいだが、15分という持ち時間だと悪手の角を打つ。
人間と比較するとコンピュータには危険察知の能力が足りない。
局面の岐路に立った場合、深く読むことがまだできていない。
floodgateの長時間の対局は、いろいろ工夫されているがまだ不十分だ。

もっとも人間は危険察知の能力があるので震えてしまい負けることもよくある。
しかし、震えずに指しているのが常にいいかというとそんなことはない。
30秒では予想通り人間はコンピュータについていけず形勢は悪くなってしまう。
ところがコンピュータは震えないので、自分の読みに自信を持って人間だったら本能的に一発食らいそうな局面に突っ込んでしまい、大逆転の機会が訪れた。

アンチコンピュータ戦略(24)

もっとも30秒で、こんな手読める人がいるのかと思う。
飛車銀桂を捨てているから、最後の局面の必死と自分に詰みがないことを読みきっていなくてはいけない。
当たり前だけど、実戦ではこの局面に勝ちがありますよと教えてはくれない。
ただ、コンピュータの終盤だって完璧というわけではないことを示しているわけで、人間にとっては勇気となる。

最後のセリフが熱い。
「自分、こんな一生に一度の舞台で、千載一遇のチャンスを逃して負けたんですか。本当ですか。」

最後にニコニコにはってあった棋譜をつけておく。

▲7六歩 △8四歩 ▲6八銀 △3四歩 ▲6六歩 △6二銀 ▲5六歩 △5四歩
▲7八金 △5二金右 ▲5八金 △4四歩 ▲7七銀 △4三金 ▲6九玉 △3二銀
▲7九角 △4二玉 ▲2六歩 △3一玉 ▲2五歩 △3三角 ▲2四歩 △同 角
▲同 角 △同 歩 ▲同 飛 △2三歩 ▲2八飛 △8五歩 ▲4八銀 △2二玉
▲7九玉 △7四歩 ▲6七金右 △6四歩 ▲1六歩 △5八角 ▲3八角 △8六歩
▲同 銀 △7三桂 ▲6八玉 △6七角成 ▲同 玉 △6五歩 ▲同 歩 △同 桂
▲9六歩 △7三銀 ▲4六角 △6六歩 ▲同 玉 △6四金 ▲6七玉 △5五歩
▲6六歩 △4五歩 ▲7九角 △5六歩 ▲6五歩 △同 金 ▲6六歩 △5五金
▲7七銀 △7五歩 ▲同 歩 △6四銀 ▲9七角 △6五歩 ▲7四歩 △6六歩
▲5八玉 △6五金 ▲2七角 △3三桂 ▲1五歩 △7六歩 ▲6八銀 △8四飛
▲7三歩成 △同 銀 ▲6九玉 △6四銀 ▲4九角 △7五銀 ▲1六桂 △8六歩
▲同 歩 △同 銀 ▲同 角 △同 飛 ▲8七歩 △8一飛 ▲1四歩 △同 歩
▲1二歩 △同 香 ▲2四歩 △同 歩 ▲同 桂 △2三歩 ▲1二桂成 △同 玉
▲1八飛 △2四角 ▲2八香 △6八角成 ▲同 玉 △6七銀 ▲同 金 △同歩成
▲同 角 △1五桂 ▲7八銀 △6六歩 ▲4九角 △6七金 ▲同 角 △同歩成
▲同 玉 △6六歩 ▲5八玉 △6七角 ▲同 銀 △同歩成 ▲4九玉 △5七歩成
▲1五飛 △5八と右 ▲3八玉 △4八と寄 ▲2七玉 △3八銀 ▲1八玉 △1五歩
▲1四銀 △2九銀不成▲同 玉 △3九飛 ▲1八玉 △2六桂 ▲2七玉 △3八飛成
▲2六玉 △2八龍 ▲2七桂 △3五銀 ▲1五玉 △1九龍 ▲1六歩 △2四銀
▲2六玉 △2五香

まで154手で後手の勝ち
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続:TPPに早く参加すべきと主張する人の考えが不思議だ

2013.02.25 Mon

21:49:23

前回の記事を書いた後、考えてみた。
最初に記事を書くときは考えがまとまっていなくて生煮えの部分がたくさんある。
そこで、一度書くと抜け落とした部分が見えてきて、より本質に近づいた考えができる。
前回の記事では、TPPの本質がよくわかっていなかった。
しかし一度書くことで、TPPの本質はブロック経済化だと確信できた。
TPPに賛成している人たちの目的が日本の関税をなくすことではなくて、アメリカと早く手を結ぶことを主張することで、そう感じる。
もっとも、中国との対立が激化する以上、日米で手を組んで中国を排斥するブロック経済圏を作ることは必要だ。
ただ、自由貿易を支持する人間として、なんとなく嫌な感じを持つだけだ。

TPPが開かれた自由貿易圏を目指すならば、参加国を増やしていかなければならない。
そうしないと、結局は参加国と非参加国の間に障壁を作り、ブロック経済圏を現出することになる。

全てのルールや基準を一元化することはできない。
どんな社会にもローカルルールは存在する。
国際社会ならばなおさらだ。
だから、全ての国が参加できるようにするならば、ローカルルールを許容する仕組みが必要だ。
標準のルールとローカルのルールを決定し、どうしても標準のルールを採用したくない場合、自国固有のローカルルールを認める必要がある。
ローカルルールを絶対に許容せず、標準のルールを全ての参加国に押し付ければ、一部の国はどうしても参加できなくなるだろう。

たとえば、EUにおけるユーロの採用もその一例だ。
イギリスはユーロの採用が金融国家としての基盤を揺るがすと考えて、ユーロ制度への参加を拒否した。
もしユーロへの参加がEUに参加する国家の必須条件であったならば、その時点でEUは分裂することになる。
つまりある程度の自由度があったから、EUは存続できたわけだ。

TPPにはその自由度が少ない感じを受ける。
原加盟国の特権とか、「聖域」という概念が、他のブロックを敵視しているように受け止められる。

TPPには開かれた未来と閉じられた未来がある。
中国という世界一の貿易大国が最初から参加していないのは、結局は閉じられた未来を暗示しているようにしか見れない。
オバマ政権が中国を外して、TPPを形成しようとするのは、中国を外した未来をつくりたいからだろう。
緩やかな中国への不満がアメリカをそういう立場に追いやっている。

論旨がうまくまとまっていないが、TPPの本質に対する現在の印象を書いてみた。
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TPPに早く参加すべきと主張する人の考えが不思議だ

2013.02.23 Sat

21:47:17

TPPに早く参加すべきと主張する人の考えを不思議に思っている。

かんべえの不規則発言2月14日の記事を見ると、次のようにある。

引用開始

○ところが、です。仮に今年の秋くらいにTPP交渉がまとまってしまって、その後から日本がこそこそと参加しようとすると、「聖域」が認められないということになってしまう。既に合意ができてしまってから、「アメリカの砂糖が認められるんなら、わが国のコメも認めてくれ」と言っても手遅れである。「われわれは交渉して妥結したのだ。交渉に参加していない日本は、この合意を丸呑みするかしないか、どちらかしかない」と言われてしまう。交渉に入ってしまえば、「コメは聖域だ」と言い張ることもできるけど、参加自体をためらっていると、そのチャンスも失われてしまうのです。

○だったら、今すぐ参加を表明した方がいい。このタイミングを逃してしまうと、参院選が近づくにつれて自民党議員に対するプレッシャーは強まるだろう。それこそ、議員さんたちが何回も踏み絵を踏まされてしまうのです。それで参院選が終わった後に、「やっぱりTPPに参加します」などと言ったら、これはやっぱり許されなくなってしまう。だったら、今ここで決断する方がいい。
引用終了

何が不思議なのかと言うと、TPPに早く参加すれば「聖域」が認められるというのは利点ではない点だ。
自由貿易は関税をかけない方が消費者にとっては利益になるから望ましいというのが、経済学の理屈だ。
自由貿易協定に参加する最大の利点は、自国の圧力団体を押さえ込んで米などの農産物の関税が廃止されるという点にある。
少なくともTPPに参加すべきと主張する人たちの理屈はそうだと思う。
だから、早期にTPPに参加しないと聖域が認められなくなるというのは、どうみても望ましいことのはずだ。

早期にTPPに参加すれば独自の日本ルールが認められなくなるという話もあるが、本当にそれが世界の標準ならば日本ルールを変更した方が望ましいのではないだろうか。
少なくとも、独自の日本ルールを守ることが絶対的な国益という理屈はおかしい。

そんなわけで、TPPに参加した方いいかどうかよくわからないでいる。
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続:グローバリゼーションがなぜ戦いを生むのか?

2013.02.22 Fri

21:50:31

前回の記事のポイントは、グローバリゼーションが逆回転し始めると失業者が発生するので、先進国は失業者を抑えるために保護貿易に走り勝ちになり、新興国はそれを不満に持つので戦争が起きやすくなるというものだった。
そこに「失業者が発生するのは、賃金の自然な低下を、政府が邪魔するからです」というコメントをもらった。
読んだだけでは真意がわからなかったのだが、リンクした記事を読むと、賃金の自然な低下を政府が受け入れれば失業者は発生しないので最終的に戦争が起こりやすくなるというのは間違いだ、という意見と解釈した。
この意見に反論してみたい。

「失業者が発生するのは、賃金の自然な低下を、政府が邪魔するからです」というのは完全雇用状態にならないのは、政府の制度的問題という意見だろう。
しかし、古典派のいう完全雇用状態は政治的には失業者がいる状態に他ならない。

たとえば、月給30万で働いていた人が失業したが、再就職しようとすると不況によって月給20万の仕事しかなくなったとする。
そこまで賃金が下がれば、すぐ再就職しようとする人はいないだろう。
貯金で食いつなぐとか、家族や親戚をたよるとかして、求職活動を続けるはずだ。
普通の感覚では失業者に当てはまると思うのだが、古典派の経済理論では自発的失業者として失業者に入らないらしい。
労働市場の要求する賃金の均衡価格より上の賃金で働こうとする人々は自発的失業者なので、彼らが失業していても完全雇用は達成されていると解釈するわけだ。
つまり、賃金の自然な低下を拒否するのは、政府が邪魔するというよりも、まず労働者のはずだ。

しかし、彼らは求職活動を続けるのだから、統計上の失業率は当然高いままだ。
そして政治的には非常に問題が大きい。
彼らはなんらかの対策を打つようにデモ等を実施して、政府に圧力をかけようとする。
あるいは選挙でケインズ政策とか保護貿易的な措置を求める政党に投票する。
自発的失業者が国民の10%もいれば選挙で勝つ可能性は非常に大きくなる。
私はケインズ政策にも、保護貿易主義にも反対だが、政治的に発生しやすくなるのは間違いない。

だから、グローバリゼーションが戦争をおきやすくするという意見はおかしくないと思う。
もちろん政府が悪いからだという意見は正しいけれど、選挙で勝つのは国民の支持を得た政党だからだ。
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続々:中国に生じている世界秩序を肯定する力と否定する力

2013.02.21 Thu

21:49:03

中国では二つの大きな力が対立しながら動いてることで、外交活動に深刻な意思不全の状態が生じている。
戦前の日本で、外務省の欧米派が必死になって欧米との間で対立を激化させないように活動しているのに対して、軍部や外務省の強硬派がそれらを無視して実力行動に出るようなものだ。
日本の中国侵略は、妥協して止めようとする力も動いていたが、結局のところ現地で実力行使をする軍部に押されていった。
穏健派の外務官僚は欧米との間で交渉をまとめ妥協を繰り返しても、行動で担保することができず欧米からの信用を失っていった。
それが戦略的に意味のある外交を取れなくなっている最大の理由だ。
中国の外交も同じような問題を抱えている。
尖閣諸島の問題での対日外交が典型例だが、今回は北朝鮮外交を考えてみたい。

北朝鮮の核実験に対して、中国は今までのようにあいまいな態度に終始している。
核実験に反対する意図を示すものの、具体的な制裁措置は取らない。
中国は北朝鮮の核実験を許容していると解釈する人もいるし、習近平がついに怒って対応措置を取ると考える人もいる
ただ、これらの解釈は中国が単一の意志に基づいて行動しているという仮定で間違っている。
中国は明らかに内部対立によって、一つの意思を示せないのだ。

中国が北朝鮮に制裁措置を取らないのは、北朝鮮の体制が崩壊しては困るためだと解釈する人が多い。
先ほどの記事には、次のようにある。

引用開始

 中国はここ数十年、朝鮮半島に対しては安定を最大優先目標としてきた。中国にとってのその『安定』とは朝鮮半島が南北分断されたままに留まることである。北朝鮮のエネルギー源の85%は中国が供給しており、中国は北の政権を揺るがし不安定化させる能力は十分に持っている。しかし実際にそんな行動を取れば、まず北朝鮮からの大量の難民が中国領へと脱出することとなる。中国はそんな事態は望まない。

 また金正恩政権が揺らいで崩壊した結果、南北統一へつながるという恐れもある。米国と同盟関係を保つ韓国が主導して南北統一がなされることは、中国がなんとしても防ぎたい事態である
引用終了

しかし、制裁措置をかけて内部が不安定になっても、本当に深刻な事態になれば北朝鮮が謝ってくると考える方が自然ではないだろうか。
金正日にしても、金正恩にしても、中国との貿易が遮断されれば経済が完全に麻痺する。
そうすると体制が崩壊し、彼らは死の恐怖すら感じるだろう。
中国も北朝鮮の体制が崩壊すればいろいろと問題は発生するだろうけれども、自分たちの命に関わるような状態ではない。
石油の供給等を止めて脅しをかけ、北朝鮮の対応に応じて今後の政策を決める。
それが一番普通の政策に見える。
でもそうなってはいない。
つまり、北朝鮮の政策を支持するグループが中国内部にいるのだ。
現在の世界秩序を否定したい人たちは対立をあおることが、軍事費の拡大を促し、自分たちの勢力の拡張につながると思っている。

実際中国は北朝鮮との外交関係を外務省に任せるのではなくて、党の対外連絡部に担当させていると思われる。
対外連絡部は欧米との交渉を担当していないので、欧米からの圧力を感じることがない。
だから平気で対立をあおっていく。

一方六カ国協議の担当は中国外交部だ。
韓日米との交渉と通じて、緊張が激化していくことの不利を意識している。
何よりも六カ国協議の議長国として、世界に中国のリーダーシップを見せる絶好のチャンスなのに、そうできない。
むしろ、中国の優柔不断な態度を世界に知らしめている。
習近平が中国の言うことを聞かない北朝鮮に怒っても不思議ではない。
しかし習近平にも中国最高指導部の意思を決定させることができないのだ。
あいまいな立場はそこから生じている。

今回の記事を書こうとして、ネットの参考記事を見ていると、ちょうどタイムリーな記事を見つけた。
尖閣・北核問題をにらんで…中国、党・軍・政統合外交司令部を設置へ

国務院の外交部と党の対外連絡部を統一して、一元的な外交機関を作ろうというものだ。
今までは、外交の個別の問題は党中央でそれに対応するプロジェクトチームを作成して対応してきた。
尖閣諸島の問題については習近平をトップとする組織が作られて、外交部や軍のメンバーが集められている。
普通に考えればそれで問題がないような気もする。
それなのに一つの外交機関を作ろうというのは、分割しておくと、外交部と党対外連絡部が勝手に行動してしまうからだ。
内部対立が強すぎて、一番上で意思を統一したころには、状況が先に進みすぎている。
だから外交機関だけでも意思を統一させておきたい。
少なくとも北朝鮮との間でどんな話をしているかだけでも情報共有したいのだろう。
私には、今回の記事は内部対立をなんとか糊塗しようとする努力の現われと受け取った。
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グローバリゼーションがなぜ戦いを生むのか

2013.02.20 Wed

21:30:54

「メリットの有無と戦争」を読むと、グローバリゼーションが進んで国家間の経済的相互依存関係が高くなっても、戦争の危険性は低下しないと主張している。

引用開始

中国のメリットのなさで最大のものは、経済的な理由です。グローバル経済と密接に結びついている中国は、もし武力行使すれば、敵に与える以上の経済的打撃を受けかねない、いや確実に受けます。そんな非合理な自滅行動をとるとは、常識的に考えられません。国家間の経済的相互依存関係が高いグローバリゼーションの時代に、主要国間の戦争はありえないように思えます。

しかしそれは誤謬です。経済のグローバリゼーション化は現代の専売特許ではありませんし、むしろ史上最大の戦争は、グローバリゼーションの時代に起きました。それは第一次世界大戦です。
引用終了

基本的には同意するのだが、むしろグローバリゼーションの進展こそが戦争の危険性を増加させているのだと思う。
正確には、グローバリゼーションの進む時代、国家間の相互依存関係が深まっている時代、戦争は起こらない。
グローバリゼーションが飽和点に達し逆回転を始める時、戦争が起きやすくなる。
グローバリゼーションによって覆い隠されていた矛盾が噴出するためだ。
その理由を書いてみる。

参照記事:覇権国の交替理論

グローバリゼーションが進んでいる時は、みんながハッピーな時代だ。
先進国の資本と技術、発展途上国の低賃金が結びつくことで大きな成長がうまれる。
先進国では発展途上国の労働者が低賃金で働くことによって、より安い製品を消費できる。
生活が豊かになる。
発展途上国では新しい働き口が生まれることで、今まで生産性の低い仕事をするしかなかった人間がより生産性の高い労働に従事できるようになる。
こちらでも、同じように生活が豊かになっていく。

しかし、永遠と思われるグローバリゼーションの時代もたいていは長くは続かない。
市場の飽和によって成長に限界が生じるからだ。
発展途上国でも成長が続けば労働者の枯渇が生まれる。
低賃金では雇えなくなり、高い賃金を支払わなくてはならない。
中国でまさに生じている事態だ。
先進国と発展途上国と分けることなく、世界全体で資本と労働の分配率が変化し、労働の分配率が上昇してゆく。
資本の利益が減少するので、資産の価値が暴落し、恐慌状態が発生する。

恐慌状態が発生するかどうかは、微妙なタイミングもあって確定しなくとも、市場が飽和すれば保護貿易主義的な立場が台頭するのは確かだろう。
人件費が同じならば、輸送費を負担してまで世界の端から輸入するメリットはなくなる。
自国の労働者を利用した方が経営としては、ずっと楽だ。
法律や文化の面倒もない。
ただ、産業を自国に戻すということは本質的に安い労働力を使えなくなる話なので、先進国の消費者の効用は減少することになる。
資産価格の下落、消費者の効用の減少は最終的に需要の低下を招き、全体としては停滞局面に入っていく。
そうすると、国家が共同体としての側面を維持しているならば、自国の失業者の面倒をみたい意識が強くなっていく。
その一番簡単な方法が保護貿易に走っていくことだ。

保護貿易が広まり始めると、新興国を中心に不満が強くなる。
不満が強くなる最大の理由は、設備投資のムダが多くなることだ。
市場が急成長しているとき、投資は激しく増えていく。
投資が投資を呼ぶ時代ならば、高度成長も可能になる。
けれども、需要が飽和すれば市場の成長は止まり、急激なショックを投資に与えていく。
高度成長を前提とした投資は成長が止まると、設備が全然稼動しなくなっていく。
設備に投資した資本家たちは不満を持つが、保護貿易が広がれば、それが原因だと思いはじめる。
グローバリゼーションの時代というのは、新興国で最新最大の設備投資がおこなわれる時代。
新興国は先進国の保護貿易化に激しく不満を持っていく。

今回のグローバリゼーションの最大の受益国は中国だった。
中国の一人当たり所得は世界有数のスピードで上昇し、中国に投資された資本は巨額にのぼった。
粗鋼の生産量が世界の半分の7億トンまで増えたことは、その現れだ。
中国の鉄鋼生産は輸出よりも国内で大量に消費されていた。
でもそれは未来の輸出のために必要な設備投資と解釈できる部分も多いはずだ。
逆に言うと、輸出が伸びなければ、設備投資も減り、鉄鋼の消費も減る。

変な話だが、日本でバブルの時に家を買った人と似ているかもしれない。
不動産の価格が高騰することで、ローンを組んで家を買った人たちは多かった。
でもばら色の未来は続かず、不動産価格は大幅に下落し、ローンを組んだ人たちは何年も返済を続けなければならず、必死に働かねばならなかった。

中国人も今まで低賃金で働き続け、やっと自分たちで資本を手に入れ、こき使われることがなくなったと思ったら、保護貿易によって仕事がないといわれる。
先進国に多大な不満を抱くのは当然ではないだろうか。
さらに中国は目に見えないコストを多大に払っている。
環境汚染がその典型的な例だ。
環境投資へのコストが安いことも含めて、中国は自国に投資を誘致してきたからだ。
中国の自業自得でもあるのだが、日系企業の生産が大気汚染の原因であると言われれば、一部はあてはまるだろう。
結局中国国民は未来の期待で働いてきたのに、現実になる直前で先進国に裏切られたと感じる。
これがグローバリゼーションが限界点に達したとき戦争が起きやすくなる背景だ。

「メリットの有無と戦争」では、第一次世界大戦前はグローバリゼーションの時代だとした。
基本的には合っているのだろうけれど、同時にグローバリゼーションがまさにかげりを見せ始めている時代だ。

通商白書2002からの一節は次のようにある。

引用開始

 イギリスでは、16世紀以降、重商主義政策が行われていたが、次第に海外市場拡大による規模の利益を求めて自由貿易推進が主張されるようになり、相手国の自由化の程度によらない一方的貿易自由化の姿勢が見られる様になった。一方、国際的に自由貿易が確立されたのは、1860年の英仏通商条約の締結が契機とされ、その後、イギリス、フランス両国は主要な欧州諸国と相次いで同様の通商条約を締結し、相互の関税が引き下げられ、欧州に自由貿易網が張りめぐらされた。
 しかし、上述の自由貿易の動きは1870年代からの大不況を境に停滞し始め、大陸諸国は保護主義政策へ転換するようになった。オーストリア・ハンガリー、ドイツ、イタリア、フランス等が1870〜90年代にかけて次々と高関税を導入した。また、この時期の米国の通商政策は、1)高関税、2)条件付き最恵国待遇、3)「公正」原則の強さ、4)低い貿易依存度の4つの点に見られるように、他の西欧諸国よりも保護主義的な政策をとっていた(第1-1-6表)。
引用終了

通商白書2002第1-1-6表

第一次世界大戦直前に多くの国で関税を上げ、自由貿易を目指すよりも保護貿易主義的な立場に変更したことが見てとれる。
グローバリゼーションの時代からブロック経済の時代に突入したといえよう。
この内在的な不満こそが、戦争を起こしやすくする背景なのだ。
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続:中国に生じている世界秩序を肯定する力と否定する力

2013.02.19 Tue

20:56:38

昨日の記事を書いた後、間違ったかなと感じるところがあった。

中国だけが二つの力に分裂しているとしたが他の国もそうではないだろうか、という点だ。
たとえば韓国は保守派と進歩派が激しく争っている。
去年の大統領選では票がほぼ真っ二つに分断されていた。
保守派が大企業の輸出中心の経済を推し進めるとしたら、保守派はグローバリゼーション賛成派といえる。
それに対して、進歩派がどちらかと言うと大企業優遇の政策に反対ならば大きく見ればグローバリゼーション反対派だろう。
北朝鮮も同じだ。
中国が進めた改革開放路線に北朝鮮を転じさせようとするグループは、明らかに広義ではグローバリゼーション賛成派だろう。
一方今まで通りに軍事優先路線を継続しようとするグループは、グローバリゼーション反対派と言える。
日本が一番判断しにくい。
民主党がグローバリゼーション反対派で自民党がグローバリゼーション賛成派ならばわかりやすいが、自民党の中にも農業保護を主張するグループがいてはっきりと判別しがたい。
日本はグローバリゼーションに賛成か反対かで判断できないのだろう。

それでは、中国が一番分裂しているという主張は間違いなのだろうか。
そうではないと思う。
まず、一個人に権限が集中しない政治システムになっているのは中国だけだ。
韓国は大統領に権限が集中しているので、韓国内部が二つに割れていても、一つの意思の元で行動する。
北朝鮮も現在は金正恩の形としては独裁に近い。
意思決定に微妙な問題はあるけれど、公的に金正恩が決定を下したら、誰も反対はできないだろう。
日本も形の上では総理大臣に権力が集中している。
形の上でも権力が集団指導になっているのは中国だけだ。
党が国家を支配する原則の元に、共産党中央政治局員常務委員が多数決で意思決定をくだす。
その結果どうしても状況に応じて、二つの派の意見が現れる。
これが中国を分裂している状態に見せている。
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