異をとなえん |

「十字軍物語3」感想

2012.06.22 Fri

20:19:08

塩野七生氏の十字軍物語3を読む。
十字軍物語〈3〉

リチャード獅子心王の評価が面白い。
塩野さんの物語の中のリチャード王は実にかっこいい。
小説の中で現れたらとても魅力的なキャラクターになるような気がする。
宗教的な情熱、義を見て為さざることはなく、誰からも好かれる人気、敵であっても許す包容力、不敗の戦上手、超人的な戦闘力、と羅列すると、どう見てもチートキャラだ。
これが十字軍と言うキリスト教世界の中では、もっとも重要であろう軍隊の一員として行動するのだから、西洋で人気があるのもわかるような気がする。
しかし、私はそれほど凄い人物と思っていなかった。
私がリチャード王の史実を知ったのは、イギリスの歴史からで、そこではあまり高い評価を得ていなかったと思う。
どちらかというと、フランス王との戦いを放り出して、十字軍に従事している人物というイメージだ。
フランスの領土の半分を支配していたイギリスだが、それをフランス王に段々と取り返されていく。
最終的に敗北を確定したのはジョン失地王となるのだが、それはリチャード王の次の王だ。
だからリチャード王はフランスとの戦いに負けつつある状況で、それを挽回できなかった王となる。

イギリスの歴史的には正しいのかもしれないが、それは歴史としての理解だ。
つまり、民衆伝説というか、庶民の間に膾炙される世界ではリチャード王は英雄なのだろう。
その英雄像を踏まえた上で、否定的な解釈が出ている。
日本でいうところの水戸黄門暗君説みたいなものだ。
水戸黄門の物語を知っている人に対して、先入観を覆すための説として意味はあっても、先入観がない人に対しては意味がなかったりする。
リチャード王に対して英雄としてのイメージがなかった私は、否定的見解をそのまま受け取っていたのだが、それは間違った理解なのかもしれない。

本の中でもp250にランシマンという歴史家がリチャード王を否定的に評価しているのを紹介している部分がある。
その評価は、息子としても、夫としても、王としても最悪だったが、兵士としては勇敢で見事な戦士というものだ。
こういう否定的評価を私はそのまま受け取っていた。

歴史を知る上でもっとも重要なことは、その時代の気持ちを感じ取ることだと思う。
後知恵で歴史を見るとバカばっかりに見える。
全然未来を見る目がない人間ばかりなのだ。
けれども実際その時現場に居合わせたのならば、人はあまり賢く行動できない。
そして賢く行動したいと思っていないのかもしれない。
自分の情熱で望むべき未来を切り開こうと思っている人間がほとんどだろう。
そういう人間が失敗すると愚か者に見えるだけだ。
けれどもその情熱がどこから来たのかを理解することが歴史を知る最大の楽しみだと思う。

リチャード獅子心王は魅力的な人物であり、その時代の人々の心に訴えかける力を持っていた。
それを知っただけでも、この本には十分価値があった。

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