異をとなえん |

みなし核保有国が戦争しない理由 - 世界は日本化へ向かう(その7)

2009.05.20 Wed

00:35:44

前回は核兵器保有国同士は戦わないことを述べた。
それでは、核保有国と非核保有国との間の戦い、
あるいは非核保有国同士の戦いはどうなるだろうか。
朝鮮戦争、ヴェトナム戦争、湾岸戦争、イラク戦争に見るように、
核保有国と非核保有国の戦いはなくなっていない。
イランイラク戦争やイラクのクウェート侵攻のように、
非核保有国同士の戦いも、当然なくなっていない。
しかし、戦争自体は明らかに減ってきている。
下記のページを見るかぎりでは、冷戦終了後、特に顕著になっているようだ。

冷戦終焉後、世界は平和になった

戦争あるいは軍事紛争が減っている理由は何だろうか。
記事の中では、民主主義の普及、
国連を始めとする国際社会の紛争予防と平和建設に向けての努力、
国際世論が各国の指導者や軍閥が武力に訴えることに
厳しい目を向けるようになってきたことの三つをあげている。

短期的に減ってきた理由は、妥当な所だろう。
しかし、
私は本質的には核兵器による抑止が大きな効果を発揮しているのだと思う。
この抑止は次の三つのメカニズムで効いている。
第一は核兵器技術の拡散による核保有国の増大。
第二はみなし核保有国に対する核の傘の提供。
第三は核兵器の水晶玉効果。

第一の核兵器技術の拡散による核保有国の増大による戦争の抑止は、
次のようなことだ。
原爆が使用されてから60年以上経ち、弱小国には高嶺の花だった核兵器も、
努力すれば保有できるレベルに技術が拡散してきた。
資金面からの開発負担は大きいけれど、北朝鮮みたいに、
GDPで世界の80位から100位ぐらいの国でも、努力すればなんとかなるぐらいだ。
つまりみなし核保有国は世界に100ヶ国近くある計算になる。
これらの国は深刻な対外紛争を抱えていると核保有に走る可能性が大きくなる。

インドパキスタンがその例だ。
インドとパキスタンは英領インドから別れて独立したため、
それ以来仲が悪かった。
独立以後1971年まで何度か戦争をしている。
その後もカシミールの領土の帰属を巡って小競り合いは繰り返されている。
しかし、インドとパキスタンが双方とも核保有国になったこどで、
小競り合いといえども全面核戦争に発展する危機は高まった。
結果、軍事対立は無益なことと判断したか、緊張は緩和しつつある。
核保有国同士は戦わない原則に従って、戦争が抑止された例になる。

核保有国同士は戦わないのだから、
核保有国が増えれば、その分だけ戦争は減少する。
これが第一のメカニズムによる、戦争の抑止になる。

第二のみなし核保有国に対する核の傘の提供は、
みなし核保有国が実質核保有国化するメカニズムだ。

イラクによるクウェート侵略を取りあげてみよう。
イラクはたぶん石油資源目当てに、クウェートに侵攻し、
一時的にはクウェートを占領することができた。
しかし、世界各国は一致団結してそれを拒否し、
大量の軍隊を送ってイラクをクウェートから追い出した。
イラクにとっては、何ら利益を得ることができない行為となった。

戦争が発生したこと自体は抑止に失敗したということで、
深刻な安全保障の問題がまだ残っていることを示している。
けれども、戦後はより強力な平和のための仕組みが設定された。
クウェートとアメリカとの同盟関係だ。

クウェートがイラクの軍事攻撃から身を守るために、
核武装する必要があると主張したとき、核保有国は止めることはできない。
非核保有国が核保有に走ることを止めるためには、
実質的に防衛に対する保障措置を認めなくてはいけない。
クウェートはアメリカとの軍事同盟を締結することによって、それを確立した。
つまり、実質的に核を保有する能力を持つ国で、
かつ深刻な安全保障上の危機があるならば、
その国が核保有に走ることを止めるためには、
核保有国はその国の安全を保障しなければならない。

北朝鮮という深刻な軍事上の危機を持っている韓国の核保有を止めるためには、
アメリカは韓国に対して同盟関係を維持しなければならない。
韓国が核保有を目指そうとした時、
アメリカは同盟関係による圧力をかけてこれを阻止した。
中国による侵攻の危険を抱えている台湾も同じことが言える。
台湾はアメリカとの正式な外交関係を持っていないが、
アメリカは台湾関係法によって実質的な安全保障を台湾に与えている。
結局アメリカは核の傘を広げることによって、
核保有国としての力を同盟各国に与えていることになる。
その結果、この傘にある国の平和をほぼ保たれている。
アメリカの同盟国は、NATOによるヨーロッパ諸国、
米州共同防衛条約によるラテンアメリカ諸国、ANZUSによるオセアニア諸国、
日本、韓国、台湾、サウジアラビア、クウェート、イスラエル、
イラクなどであり、GNPの高いほとんどの国を網羅している。
つまり、みなし核保有国のほとんどは実質核保有国となっている。

そして、第三の核兵器の水晶玉効果によって、
みなし核保有国では戦争はおこらなくなっている。
核保有国たとえば中国から、核保有国の同盟国たとえば日本への、
攻撃はなぜ起こらないのだろうか。
核保有国同士は戦わないといっても、
核保有国が同盟を結んでいる非核保有国に対して、
その利害関係の全てをサポートするとは限らない。
中国が尖閣諸島を占領しても、
アメリカは防衛をサポートしてくれない可能性だ。
アメリカが防衛をサポートしなくても、
中国が尖閣諸島を取りにくる可能性はほとんどない。
その理由が核兵器の水晶玉効果だ。

核兵器によって、
戦争がはっきりした決着がつく可能性が極めて少なくなっている。
中国が日本を攻撃したとしても、
日本全土を占領するような日本の死活的利害に関係する攻撃ならば、
アメリカの救援は必死となる。
そこで救援しないと、全ての同盟が意味を持たないものになるから、
同盟国全てが核武装に走ってしまうからだ。
そうすると、攻撃できるのは尖閣諸島くらいのレベルだ。
尖閣諸島を占領したとしても、日本からの反撃がやってくる。
安定した後背地がある以上、それはずっと続く可能性が高い。
このあたりは、ほぼ確実に予測でき、
それでもなお占領する価値が尖閣諸島にあるだろうか。

抽象的に書くならば、核保有国が別の核保有国の同盟国を攻撃した時、
それがその国にとっての死活的利害を侵すならば、
結局は別の核保有国による救援を招く。
死活的利害を侵さない場合は、そもそも戦う意味があるか不明になる。
資源が埋まっている場合などは、死活的利害に含まれるだろう。

以上の三つのメカニズムでみなし核保有国も戦争をしない。
そして、みなし核保有国の数は経済の成長に伴い、
段々と世界中に広がっていく。

今回の記事は苦労した割には出来が良くない気はするけれど、
直感的には正しいと思っている論理を明確にする上で、
個人としては非常に有益だった。

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